WRC2024/01/27

エヴァンスがリード維持もオジエが猛反撃

(c)Toyota

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 2024年世界ラリー選手権(WRC)開幕戦のラリー・モンテカルロはデイ2を終えて、エルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)がリードを維持しているものの、10度目の地元ラウンド勝利を狙うチームメイトのセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が3つのベストタイムで猛チャージ、4.5秒差に迫っている。

 ラリー・モンテカルロの金曜日は、ギャップ北部のサン・レジェ・レ・メレーズ〜ラ・バティ・ヌーヴ(16.68km)からスタート、北東にあるシャンスラ〜サン・クレマン(17.87km)、ラ・ブレオル〜セロネ(18.31km)の3ステージをギャップでのミッドデイサービスを挟み、午後も同じステージをふたたびループする6SS/105.72kmとなる。

 気温10度近い温かな朝となったことでオープニングステージのSS3サン・レジェ・レ・メレーズ〜ラ・バティ・ヌーヴ は、ほぼ全域にわたってドライとウェットのステージとなった。それでもモッシェール峠に向かう上りでいくつかのコーナーにブラックアイスが発生し、クルーたちをヒヤリとさせる。

 なかでも7.7km地点の日陰となった凍結した右コーナーで4位につけていたオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)がスロースピードでオフ、観客たちの助けでどうにかコースに戻ったが41.9秒をロスしてしまった。さらにまったく同じコーナーで6位につける勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)もディッチに引きずり込まれてしまい、5分24.5秒を失ってしまった。

 2位で金曜日をスタートしたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)も問題のコーナーで大きくスライドしたが、幸運にも路肩の雪だまりに助けられてオフを逃れている。しかも、彼はここでベストタイムを奪い、首位のエヴァンスに9.8秒差に迫っている。

「本当にトリッキーだった。氷に乗ってしまうとグリップはゼロになってしまう。僕たちはステージを走りきることができたし、リズムは良かったよ。もう少し自信が持てるよう、もうちょっとクルマに手を掛けていかなければならない」とヌーヴィルは語っている。

 前夜に行われた2つのナイトステージでともにベストタイムを奪ってラリーをリードしたエヴァンスは、ここでは上り坂のブラックアイスで慎重になったと認めたが後続のトラブルを聞くや、それらを回避したスタートができたことに満足そうに微笑んだ。

 3位につけるオジエは前日のナイトステージでトップから21.6秒もの遅れを喫したが、その差を縮めるはずが22.9秒へと広がってしまった。「大丈夫だったが、このステージでもっとも難しかったのはアイスパッチではなく、路面を覆う砂利と土だった」と、タフな一日を予感したのか彼は厳しい表情をうかべていた。

 4位にはアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)が浮上、ディッチから観客に助け出されたタナクが5位へと後退、6位にはアンドレアス・ミケルセン(ヒョンデi20 N Rally1)というオーダーとなり、勝田は19位まで後退してしまった。勝田は「僕のミスだ、本当に馬鹿なミスだ。実際本当に悪いコンディションだが、まだ終わったわけではない」と、自身のミスを罵りながらも、この難しいステージを学ばなければならないと固く口を結んだ。

 SS4シャンスラ〜サン・クレマンは、2020年にタナクが大きなアクシデントに見舞われたサン・クレマン〜フリシニエールを逆走、短縮したステージだ。ここもまたところどころ湿った路面があるが、ほぼ全域にわたってドライだ。

 2位につけるヌーヴィルは中間セクションまでエヴァンスを2秒上回って首位へのどん欲な野心をみせていたが、最終セクションのコーナー出口にかきだされていたダートでのスピンによって10秒遅れ、これでて首位エヴァンスとの差は18.8秒へと広がってしまった。「リヤのグリップを失ってしまった。グラベルか何かあったんだろうけど、僕のノートにはなかった、大きなサプライズだったよ」

 3位につけるオジエがこの週末初のベストタイム、首位とは21.9秒差、2位のヌーヴィルとは3.1秒差へと迫っている。それでも彼はまだ自身のペースには満足したわけではない。「このスタートポジションでは、さらにもっと速く走るのは難しい。今のところベストを尽くしているけど、この状況を受け入れなければならない、そして何ができるか考えていくよ」

 続くSS5ラ・ブレオル〜セロネは谷風の通り道となるダウンヒルはブラックアイスやアイスパッチに要注意のステージだ。とはいえ、気温は10度まで上昇、アイスノートクルーが早朝に走ってからすでに数時間が経過しているため、アイスが融けてただの湿ったターマックに変化しているところも多く、ノートの情報と実際の路面コンディションの違いがドライバーたちのペースを惑わせることになった。

 誰もがノートに疑心暗鬼になる状況のなか、オジエは2番手タイムのエヴァンスを11.2秒も引き離すベストタイム、ヌーヴィルを抜いてエヴァンスの10.7秒後方の2位へと浮上することになった。

 信じられないほどの印象的なスピードをみせたオジエは、ステージエンドで「ここまでは苦戦していた。ステアリングを握っているフィーリングは問題なかったが、リスクを冒さずに速く走るのは難しかった。複雑なループを何とか乗り切るためにベストを尽くしたよ」と話すうちに奇妙なことに涙を流しはじめる。なにがあったのか聞かれても、彼は「個人的なことだからラリー後に話す」とコメント、複雑な感情を押さえるように、「(アイスノートクルーからの)いい情報があったし、アイスのセクションの場所もはっきりわかっていたので、自分のスピードに合わせることができた」と続け、この複雑な状況で自身の速さの支えとなったアイスノートクルーの仕事を称賛することになった。

 エヴァンスは有利なロードポジションを活かしてもっともクリーンなはずの3ステージを走行したが、表面にはダストがうっすらと積もっているのか、グリップになかなか自信がもてないようだ。「トリッキーだ。コンディションは少し良くなったけど、アイスがあるところはすごく悪いし、ないところはフルグリップでハイスピードだ。速く走ることはできるけど、簡単ではないよ」

 ヌーヴィルもオジエから13.8秒差の3位で続くが、「ノートにはアイスが多いって書いてあって、とにかく慎重になりすぎた。氷がたくさんあるってあるのにさらにリスクを冒すのは危険だった」と、読めないコンディションに阻まれて攻めきれなかったと認める。さらにシェイクダウンのあと前夜にオイル漏れのために交換したトランスミッションも彼の思いどおりの機能を発揮してないようだ。「ロックが少なくなって、ブレーキング時のサプライズが少し増したんだ」

 フールモーを前ステージで抜いたタナクが4位へとポジションを上げてきたが、フールモーはここで3番手タイムを刻んで、タナクの3.3秒後方にピタリとつけている。2年前のここでのクラッシュをきっかけに長い不振に陥ったフールモーは、苦しみを乗り越えてRally1カーにもどってきた嬉しさを心底感じているようだった。「結構嬉しいよ。最初のステージでもトライしてみたけど、ステージの合間にちょっとだけ調整しなければならなかった。今はクルマには満足しているし自信も持てている」

 サン・レジェ・レ・メレーズ〜ラ・バティ・ヌーヴの2回目の走行となるSS6では、気温が上昇したことで前半と終盤のセクションでは路肩の氷が融けて川となってコースに流れだしたためウェットのセクションが多くなっている。路面は砂利や石がかきだされており、もはや先頭スタートのエヴァンスも追撃陣の路面コンディションに大きな違いはない。

 エヴァンスが首位をキープも、オジエは1.6秒差の2番手タイムで続き、その差を9.7秒としている。朝のループで勝田やタナクがコースオフを喫したコーナーはシャーベットやアイスが入り交じった難しいコンディションとなっており、ヌーヴィルもまるでマシンが止まるほどにペースダウンをしながらもここではベストタイム、トップから21.9秒遅れ、オジエに12.2秒差に近づくことになった。「まずまずのステージだったが、タイヤをどれだけプッシュしていいか判断が難しい。スムーズな走りを心掛け、それが上手くいった」と彼は自信をみせる。

 ヌーヴィルは続くSS7シャンスラ〜サン・クレマンでも2連続でベストタイム、2位のオジエに8.7秒差に近づいてきた。エヴァンスは首位もキープも、ここでもオジエに1.1秒を縮められ、いまやそのリードは8.6秒と小さくなっている。「フィニッシュに向かうにつれて汚れていた。カットにはグラベルが沢山掻き出されていた。僕はナローで汚れた場所で十分にスムーズな走りをする勇気がなかったように思う」と、なかなかライバルたちを引き離せないことに苛立ったように見えた。

 この日の最終ステージのSS8ラ・ブレオル〜セロネは夕闇が迫るなかでスタートするため、標高が高い北斜面では昼間に融けて流れだして湿った路面が凍結を始めることが懸念されたが、一部の残ったアイスを除き湿ったコンディションのままだった。朝のループではこのステージでライバルを1kmあたり0.6秒も突き放す驚くべきペースをみせたオジエは、前半のスプリットではやや押さえたが、終盤のダートが多いセクションでも暴れるマシンを抑えるようなアグレッシブな走りをみせてタイムを削り、エヴァンスに2.9秒差をつけてフィニッシュ、ついに首位まで4.5秒差に迫ることになった。「朝よりもかなりスリッパリーで、泥だらけだった。今日は難しいスタートとなったが、出走順から予想していたことだったので、非常に僅差で今日を終えられてうれしい。明日は面白くなるだろう」

 エヴァンスは前夜の連続ベストタイムとはうってかわってライバルたちの攻撃から守りの一日となったが、問題なくフィニッシュできたことを喜んだ。「決して簡単になることはないラリーだが、暗闇の中は特に難しい。路面のコンディションを読むのは非常に難しいが、問題なく今日を無事に終えられてうれしい」

 2番手タイムを奪った3位のヌーヴィルも首位まで16.1秒差、2位のオジエには11.6秒の差で金曜日を終えている。「フィニッシュできてうれしい。朝は良くなかったが、午後は良くなった。集中力を維持し、明日はもっと良い仕事をしなければならない」

 タナクは朝のオフで表彰台争いから脱落してしまったが、チームメイトのヌーヴィルからは57.5秒遅れの4位で続いている。「なんとか切り抜けた。明らかに不安定でリズムも良くなかったが、どうなるかな」

 24.4秒差の5位には大健闘の走りをみせたフールモー、さらに1分24.4秒後方の6位にはミケルセン、ミスなくゴールを目指すことを最大の目的とするグレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)が7位で続き、Mスポーツ・フォードのワークスドライバーとしての初日を順調にこなすことになった。

 朝のループでのスタックで19位まで後退した勝田は、慎重なペースを維持しながらも12位まで追い上げてきている。彼は無理して追い上げるつもりはなく、将来のためにこのコンディションでのペースを学びたいと語っている。「現時点では何も競う状況ではないので、今後のためにドライビングとペースノートを改善しようと頑張っている。あとは日曜日によりフォーカスしている」

 明日の土曜日は、この週末で最もアイスの多いエスパラン〜オーゼ・ステージから始まる6SS/120.40kmの一日となる。ピレリはタイヤにとってももっとも難しい一日になると予想しており、このラリー最大のヤマ場となりそうだ。現地の8時5分、日本時間16時5分のスタートが予定されている。