2024年世界ラリー選手権最終戦のフォーラムエイト・ラリー・ジャパンの土曜日は、前日にラリーリーダーとなったオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が、2位のエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)との差を広げ38秒差の首位に立っている。3位には前日のパンクで後退していたセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が浮上。勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)は、ハーフスピンを喫して5位にポジションを下げたものの6.1秒差でアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)を追いかけるポジションにいる。またターボのトラブルで大きく順位を落としていたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)も総合7位まで浮上を果たした。
ラリー・ジャパンのDAY2は、岐阜県中津川市と恵那市が舞台となる。笠置山モーターパークのジムカーナコースと笠置山の林道を組み合わせた新ステージのマウント・カサギ(16.47km)からスタートし、ネノウエ・コウゲン(11.60km)、エナ(22.79km)と午前中に3つのステージをこなし、中津川公園に設けられたタイヤフィッティングゾーンを挟んで、同じ3ステージを午後もループ。その後、サービスパークを経てトヨタ・スタジアム・スーパーSS(2.15km)で一日を締めくくる行程だ。競技区間は7SS/103.87kmとなる。
土曜日の朝のループに向けてのタイヤ選択は、タイトルを争うトヨタとヒョンデともに全ドライバーがソフトタイヤ5本をセレクトした。Mスポーツ勢はフールモーがソフト3本+ハード2本、ミュンスターがソフト4本+ハード2本でステージに向かう。
この日のオープニングとなるマウント・カサギは、ジムカーナコースに設けられた2つのドーナツターンから始まり、狭くバンピーな林道コースへとつながる。インカットできないように多くのコーナーにはアンチカットディバイスが設置されたが、コース中盤区間はコース脇のわずかな芝生のあるコーナーもかなりあるため多くのドライバーたちが最短距離のコーナリングを狙って攻めて行く。路肩には岩や側溝が隠れているため安易なインカットには注意も必要だが、ラリーカーの走行では瞬く間に路面が汚れていく。
20.9秒差で首位タナクを追いかけるエヴァンスは「スタートはかなりトリッキーで、ステージの中盤は非常にスリッパリーだった。路面の判断が難しい。このラリーにおいては今に始まったことじゃないけど。(マシンを)少し調整した」とベストタイムを刻んでみせ、タナクとの差を17.9秒に縮めた。
フールモーとの3位争いを展開する勝田は「安全に走った。それでもかなりトリッキーなステージだった。まだ色々なことが起こるかもしれないから、とにかくコースから外れないようにしよう」と、まずはマシンの感触を確かめるように一日をスタートさせた。対するフールモーはタイヤのグリップに不安を感じているようだ。「タイヤに少し苦労した。最初は良かったが、湿度が高く、3〜4km走ると気温が下がり始めた。今のペースには満足しているが、残りのループがどうなるかな」と語る。フールモーは勝田のタイムを5.1秒上回り、0.1秒だったタイム差は5.2秒に広がった。
一方、前日、ターボのブーストが上がらない問題に見舞われたヌーヴィルは、アタックすることができず、総合15位までポジションを落としていたが、チームは完璧な修理を行い、初チャンピオンを狙う彼を送り出した。ここで13位まで追い上げた彼にとって、この日のゴールまでにポイント圏内までポジションを戻すことが重要となる。「ようやくマシンが本来の調子を取り戻しスピードを出せるようになった。もちろん今日の目標はポイント圏内に復帰し、この一日を最大限に生かすことだ。ステージは本当にトリッキーで、スリッパリーだった。ベストを尽くしたが、ところどころ驚かされる場所もあった」とヌーヴィルは語り、挽回を期す。
SS11のネノウエ・コウゲンは、標高560mのスタート地点から標高930mの根ノ上高原へと駆け上がるステージだ。スタートしてすぐは左側が視界を遮る岩壁が続く細道だが、すぐに道幅6mのワインディングとなる。コース中には保古の湖を眺める恵那山荘のギャラリーコーナーがあり、その後、中津川市岩村方面へのハイスピードな林道を下っていく。路面はカラマツなどの落葉、パッチのある荒れたターマックとなり、道幅は狭まる。縁石にホイールやエアロパーツをヒットしないように慎重な走りが必要となる。
勝田はこのステージで、3番手タイムでフールモーを逆転し3位に浮上するが、自身は表彰台を狙うのではなく、チームの戦略にしたがって選手権のためのバックアップという大切なミッションのために走っていると語っている。「いいステージだった。汚れも少なかったので、もう少し速く走ることができたと思うが、戦略に従っている。セブが可能な限り速く走ってくれることを願っているんだ。もちろんポディウムを獲得出来たらうれしいけれど、それは今週末の僕の目標ではない。チームの作戦に従うだけだ。目標はチームを助けること、それだけだよ」と落ち着いた表情。
ベストタイムはこれまでの鬱憤を晴らすような走りを見せたヌーヴィル。12位までポジションを上げてきた。「昨日はセットアップなどの作業がほとんど出来なかったから、プッシュできなかった。明日はコンディションが少し変わるかもしれないので、明日のためにもプッシュし、今日から学ぶ必要があるんだ」と、タイトル獲得の光明を手繰り寄せようとしている。
首位のタナクは慎重なペースを崩さない。路面はダートや落ち葉で汚れており、簡単にミスを引き起こしそうなトリッキーな路面だ。「情報が多過ぎて、慎重になりすぎてしまう。そこに何もないと分かっていても、その影響を常にうけてドライブするのは難しい。適応しようとしているけど、まだ慎重すぎる」。エヴァンスとの差は16.3秒。ジリジリと縮まってきた。
午前のループの最後のステージは22.79kmのエナシティの1回目の走行だ。テクニカルで狭い林道が中心となるのはこれまでと同様だが、インカットガ可能でスピードの乗るコーナーも点在している。とはいえ、出口が狭くなるコーナーも多く、滑りやすいコンディションでは注意が必要となる。この難路で勝田が罠に嵌った。崖とガードレールに挟まれた狭いセクションで落葉に乗ってスピン。右リヤバンパーを破損しただけで大きなダメージがなかったことは幸いだったが、オジエに抜かれて5位にポジションを落としてしまった。
さらにこのステージではアクシデントがあった。フールモーがスタートした後、コース内に一般車が侵入。スタートラインを塞ぐようにしてストップしたため安全上の問題から赤旗が出されて、エヴァンス以降の走行がキャンセルされることになった。キャンセルになるまではオジエの16分39.3秒がベストタイムであり、タナクにはオジエと同じノーショナルタイムが与えられ、エヴァンスにはさらに1秒速い16分38.3秒の最速タイムが与えられている。
タイヤフィッティングゾーンを挟んで、気温が上昇したため午後のループに向けて全ドライバーがハードタイヤ5本をセレクトして臨んだ。前日のコースオフリタイアから再走していたアンドレアス・ミケルセン(ヒョンデi20 N Rally1)がメカニカルトラブルでリタイアを決めている。
SS13、2回目のマウント・カサギではタナクがこの日最初のベストタイムを記録した。「間違いなくプッシュした。昨日ハードタイヤを履いていた時ほどバランスは良くなかったが、快適だった。僕たちはこのまま続ける必要がある。ジャパンのステージは決して楽じゃないからね」とコメント。一方で何とか食い下がりたいエヴァンスは「特にスリッパリーな場所でアンダーステアを強く感じたので、少し自信を失ったのだと思う」とタイムが伸びず、両者の差は21.4秒となる。オジエはセカンドベストを刻んでフールモーをかわして1.6秒差の3位にポジションを上げた。「良いステージだったよ。少なくとも今は泥がどこにあるのか特定できた」と満足そうだ。
SS14では、オジエとヌーヴィルがベストタイムを分け合う。ヌーヴィルは「午前の最後のステージからブレーキに苦労している。ここでもそうだ。ポイントを追加するために7位に追いつきたいが、この問題のせいでそれができるかどうか分からない」としながらもパヤリを抜いて8位までポジションを回復する。
前のステージで3番手タイムを記録した勝田は、ここでもオジエとヌーヴィルに続くセカンドベストでフールモーとの差を0.2秒まで縮めてきた。「非常に接戦で、とても楽しいが、トヨタはかなり速い。僕も必死に頑張っている。このステージはとても楽しかったし、プッシュした。タカに抜かれたくないし、セブから離されたくないので、全力を尽くした」とフールモーも踏ん張っている。
この日最後の林道ステージ、SS15エナではオジエが連続ベスト。ヌーヴィルが0.1秒差で続き、グリアジンを抜いてついに7位まで上がることに成功、初のワールドチャンピオンにまた一歩近づいた。午前の同じステージでスピンを喫した勝田は、ここでもタイムが上がらずフールモーとの差は5.4秒に広がる。首位争いも膠着状態だ。
「1回目は走っていないし、トリッキーなステージだった。すべてのノートが完璧だったわけでなない。今朝はエヴァンスが良かったが、ハードタイヤでは僕たちの方がうまく走れている。プレッシャーは常にある。確かに僕が守らなければならなかった時とは違うけど、今のところプッシュしていくしかない。目標ははっきりしている」とタナク。
エヴァンスは朝のループでソフトタイヤを使用したときには速さをみせたものの、午後になってハードに変えて以降、グリップもしっくりこなくなってしまった。「まだいい走りとは言えないし、本来あるべき状態ではないね。トライはしているが、タイムが出ない。(なぜタイムが出ないのか)原因を突き止める必要がある」と語る。ふたりのタイム差は36秒となった。
土曜日最後のステージは、トヨタ・スタジアムでのスーパーSS。2台並走のマッチアップで、ポディウムを争うフールモーとオジエのバトルはフールモーに軍配が上がる。勝田はエヴァンスを降し、タナク対ヌーヴィルはタナクが勝利した。ベストタイムはタナク。2位エヴァンスとのタイム差は38秒で最終日へと向かう。オジエ、フールモー、勝田のポディウム争いは3位オジエから8.2秒後方にフールモー、さらに6.1秒遅れで勝田が続く。トヨタは暫定ながらマニュファクチャラー選手権でのポイント差を15ポイントから11ポイントへと縮めてはいるが、パーフェクトなスタートをみせて最終日の逆転を計画していた彼らにとっては大誤算の結果だろう。
ラリー・ジャパン最終日は、愛知県豊田市と岡崎市を舞台とした5SS/70.57kmが用意されている。オープニングステージのヌカタ(20.23km)に続き、これまでのリバース方向での走行となるレイク・ミカワコ(13.98km)を走り、さらにヌカタ・ステージの2回目を走行した後、豊田スタジアムに戻ってトヨタ・スタジアム・スーパーSSの走行を行う。15分のサービスを受けた後、ラリーカーは再び三河湖へ向かい、レイク・ミカワコの2回目の走行がパワーステージとして行われる予定だ。