WRC2019/10/28

ヌーヴィルがスペイン勝利、タナク新王者に

(c)Hyundai

(c)Toyota

(c)Toyota

 2019年世界ラリー選手権(WRC)第13戦ラリー・デ・エスパーニャは、マニュファクチュアラー選手権をリードするヒュンダイ勢が初日から好調なペースでラリーを牽引、エースのティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)が勝利した。2位には最終ステージで劇的な逆転劇を演じたトヨタGAZOOレーシングWRTのオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)が入り、最終戦を待たずにドライバー選手権タイトルを決めることとなった。

 ラリー・デ・エスパーニャの最終日は、タイトル獲得に望みを残すヌーヴィルがラリーをリードし、チームメイトのダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)が2位。3.1秒差でタナクが続くという緊迫した状況でスタートした。この時点でドライバー選手権をリードするタナクはラリー終了時に30ポイントのリードを確保すればタイトルが確定する。ヌーヴィルが勝利しても、タナクがこのまま3位でフィニッシュし、パワーステージでヌーヴィルがタナクに2ポイント以上の差をつけなければタイトルが決定するという状況だ。前日のゴール時、ラリーをリードするヌーヴィルは、「タナクは速かった。そういう時、僕たちにできることは残念ながらあまりない」と語っていたが、果たして。

 気温14度、薄曇りの朝を迎えたサロウ。肌寒いものの、この後は晴れて気温は22度まで上がるという予報だ。スタート順は3分間隔で、1.ミーク(トヨタ・ヤリスWRC)、2.勝田(トヨタ・ヤリスWRC)、3.オジエ(シトロエンC3WRC)、4.スニネン(フォード・フィエスタWRC)、5.エヴァンス(フォード・フィエスタWRC)、6.ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)、7.ローブ(ヒュンダイi20クーペWRC)、8.タナク、9.ソルド、10.ヌーヴィルとなり、全ドライバーがハードタイヤ5本を選択している。

 最終日のオープニングステージ、SS14リウデカニエス(16.35km)は、スタートしてすぐのコル・デ・ラ・テイヘタのラウンドアバウトで知られている。丘の斜面に陣取る大観衆の前で各ドライバーが360度のドーナツターンを行なう檜舞台だ。ステージの大半はダウンヒルで、序盤のドゥエサイゲスまでの道はツイスティで複雑。その後、鉄橋の下を通過してフラットでハイスピードなコースに変化し、リウデカニエス貯水池を沿って回り込んでフィニッシュへと向かう。路面は概ねドライだが、朝露でところどころ湿っている状況だ。

 このステージでベストタイムを奪ったのはヌーヴィル。「効率的に走ろうしたが、ある時点で修正部分が出てきて、混乱してしまった。集中力を取り戻す必要があった」と語ったが、2位以下とのリードは22.2秒に広がった。セカンドベストもヒュンダイのソルド。タナクを0.4秒上回る。「大した差ではないかもしれないが、ないよりずっとマシだ! 限界ギリギリかって? いや、50パーセントだ! もっとプッシュしようとしたが、オイットが2位を狙いにくるだろうからね。僕は自分のベストが出せるように続けていくよ」と語る。「とてもクリーンないい走りができた。僕が今できることはそれだけだからね」と言うタナクはソルドから少し遅れて3.5秒につけている。

 SS14は2014年以来の走行となるラ・ムッサーラ(20.72km)。今回はその時の逆走で使用される。序盤は登りのヘアピンコーナーが続き、ペースは比較的スローだが、後半にかけてペースアップして長いストレートが続くハイスピードコースとなる。フィニッシュの1km手前には最後の難関となるヘアピンコーナーが待ち構える。ここで気を吐いたのはソルド。タナクを牽制するベストタイムでその差を4.5秒に広げてみせた。そのタナクは「すごくトリッキーなステージだった。高速部分に入ると新しいノートになるからスピードを保っていくのになかなか自信が持てない」と語った。このステージは2回目の走行でパワーステージとして使用される。タイトル獲得に望みをかけるヌーヴィルはこのままいけばパワーステージでタナクに2ポイント差以上をつける必要がある。「かなり路面が汚れていたからリスクを冒さないようにした。後で走る時にはブレーキがもっと機能していたら、思いきりプッシュするつもりだ」と抱負を口にする。

 ラリーカーはいったんポルト・アヴェンツーラのサービスに戻り、2回目のリウデカニエスとラ・ムッサーラの走行に備える。この時点の順位は、首位にヌーヴィル、ソルドが2位で続き、3位にタナク、4位には「今日はクルマの扱いに苦労している」というローブが19.7秒差で続く。10.1秒後方の5位はラトバラ。「ようやく調子が上がってきた」というエヴァンスが21.3秒遅れの6位。7位にはラ・ムッサーラでサードベストを刻んだスニネンが15.1秒差で続いている。8位のオジエは「実際あまりいいところがない。この種のステージではいろいろと問題も多くて、リヤが頻繁にホイールスピンを起こしてしまう。午後に向けて何か対策できないか調べていく必要がある」と諦め顔だ。

 SS15、2回目のリウデカニエスは、ソルドがベストタイムを奪った。「(タナクに対して)少しでもタイムを稼げたのは良かった。しかし、まだラリーは終わっていない。チームのおかげでマシンは非常に良い動きをしている。とても良いドライブができる」と語れば、タナクも「良いフィーリングだ。マシンのバランスは良い。前と同様、僕はできることをすべてやっている。次はかなり特別な最終ステージなので、集中しよう」とパワーステージに臨む。一方、ヌーヴィルは「良いステージだったが、ダニが速かった。パワーステージに向けてマシンを少し調整したい。調子は良いので、どうなるか楽しみだ」と話した。

 運命の最終ステージ、SS16ラ・ムッサーラ。このステージのWRC勢のスタート順はミークから始まり、オジエ、スニネン、エヴァンス、ラトバラ、ローブ、ソルド、ヌーヴィル、タナクとなる。タナクがタイトルを決めるには、ヌーヴィルより多くのパワーステージポイントを獲得するか、総合順位でヌーヴィルから1つ下の順位でフィニッシュすればいい。最初に走ったミークのタイムは11分03.5秒。スニネンはワイドになってコースに戻るためにリバースギヤを使うことになりタイムロス。1回目の走行のタイムを上回ることができなかった。そして続くエヴァンスが10分53.2秒のスーパータイムを叩き出す。「早い段階からマシンにとても自信が持てた。僕たちが加えた微調整が、スペインで役に立つと思っていなかったが、序盤から自信が持てたので、プッシュし続けた」と破顔する。このタイムは後続のラトバラ、ローブも破ることはできない。ソルドも2.4秒落ちだ。そしてヌーヴィル。エヴァンスの0.2秒遅れの暫定2番手タイム。「僕たちは今週末にできるだけのことはやった。タナクがどうするか見てみるしかない」と彼のフィニッシュを待つ。

 そしてここで圧倒的なパフォーマンスを見せることとなったのがタナクだ。タナクは、エヴァンスを3.6秒上回るベストタイムを刻み、5.8秒もの大差をひっくり返してソルドを逆転、0.4秒差でかわして2位に浮上することに成功、最終戦を待たずにドライバーズタイトルを獲得した。

 タナクは、激戦を振り返って、「最高の気分だ! 今週末に感じたプレッシャーを言い表すのは難しい。桁違いだった。そのプレッシャーをマネージメントして乗り切ることが目標だった。誰にも想像できないと思う。まずチームに感謝したい。彼らは素晴らしい仕事をしてくれた。僕は決してリスクを取るつもりはなかったけれど、昨夕、母は何かをしたいのならばきっとそれを実現できると励ましてくれた」と語った。またチーム監督のトミ・マキネンは「今の気持ちを説明するのは難しいが、これまでオイットと共に必死に努力してきたチーム全体に心から感謝したい」とコメントした。

 ラリーはヌーヴィルが勝利し、2位にタナク、最終ステージで逆転されたとはいえ、3位のソルドは素晴らしいパフォーマンスを披露した。4位には「ラリーには良いことも悪いこともあるさ。とにかく今はこのポジションにいる」とローブ。5位ラトバラ、6位にエヴァンス、7位スニネン、8位オジエ。勝田は14位でゴールしている。

 2019年世界ラリー選手権(WRC)も残すところラリー・オーストラリアの1戦。最終戦を待たずにドライバーズタイトルは決まったが、もう一方のタイトル、マニュファクチュアラー選手権はヒュンダイ・シェル・モビスWRTが380ポイントでリードし、トヨタGAZOOレーシングWRTが362ポイント、シトロエン・トタルWRTが284ポイント、Mスポーツ・フォードWRTが218ポイントという状況だ。最終戦ラリー・オーストラリアは11月14日にスタートする。