WRC2024/01/29

ヌーヴィルがモンテ優勝、オジエは10勝記録ならず

(c)Hyundai

(c)Toyota

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 2024年世界ラリー選手権(WRC)開幕戦のラリー・モンテカルロの最終日、ヒョンデ・モータースポーツのティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)が、8度のワールドチャンピオンであるセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)の追撃を振り切り、この歴史ある伝統の一戦における2020年に続く2度目の勝利は、キャリア通算20勝目となるメモリアルウィンとなった。

 ギャップでのオーバーナイトホルトのあと、日曜日にラリーカーは南下、モナコでのゴールを目指す。オープニングSSは金曜日にも走ったラ・ブレオル〜セロネ(18.31km)の3回目の走行からスタート、ディーニュ・レ・バン〜ショドン・ノラント(19.01km)のあと最終ステージのラ・ボレーヌ・ヴェジュビー〜コル・デ・チュリニ(14.80km)がパワーステージとして行われる、3SS/52.12kmの一日となる。

 いつものパワーステージのポイントに加え、今季から日曜日のみの順位に初めて選手権ポイントが与えられるため、最後までゆっくり走るわけに行かない。ここまでどれだけ良いコンディションのタイヤを残してきたどうかで最終日のペースは決まることにもなりそうだ。

 オープニングSSは金曜日にも走ったラ・ブレオル〜セロネの3回目の走行となる。スタート時点での気温は3度、まだ夜明け前の暗闇のステージとなるため、序盤のシャラメル峠までの上りのウェットセクションのいくつかにはブラックアイスが生まれ、終盤にも予想以上に霜とアイスの危険なエリアが待ち受けることになった。

 前夜の最終ステージでヌーヴィルが素晴らしい速さをみせて、モンテでの10勝目へリスクを冒したペースを刻むオジエを逆転したことはこの週末の一つのハイライトだった。しかし、選手権を戦うヌーヴィルにとって、モンテの勝利だけに固執してこの週末をノーポイントで終えることほど愚かなことはない。

 ナイトポットが照らし出すブラックトップは凍結しているのかただの湿った路面なのか判断はきわめて難しい。序盤の上りでヌーヴィルは一瞬、フロントのグリップを失いかける。3.3秒をリードして最終日を迎えたとはいえ、パートタイム参戦のオジエを相手に優勝を争う意味はなく、ヌーヴィルは安全なペースへと戦略を切り換えるかにも思えたが、さらに一段上のレベルのスピードへとペースを切り換え、オジエに4.7秒もの差をつけるベストタイムでフィニッシュすることになった。

 完璧なステージを確信したのだろう、彼はフライングフィニッシュの前にコドライバーのマルテイン・ウィダーゲと握手を交わして雄叫びを上げることになった。

「良かった!序盤は大きくプッシュし、終盤はもう少し慎重になったが、どうやら皆もそのセクションではスローダウンしなければならなかったようだ。良い仕事ができたよ。タイムには満足している」とヌーヴィルは笑みをみせた。彼はオジエとの差を8秒へと広げることに成功した。

 SS16ディーニュ・レ・バン〜ショドン・ノラントは、ラリー終盤にクルージングをするのはもってこいだが、峠の頂上のあとの後半は狭くでこぼこした高速の下りは針の穴を抜けるようなコーナーが多く、リスクを負えば負うほどデンジャラスなコースとなる。峠はそれほど高くなく、暖かいニースにも近いことからそれほどやっかいなコンディションにならないと見られたが、日の出前の冷え込みであちこちにブラックアイスと霜の下りたエリアが散らばって出現する。

 オジエは前ステージのあと慎重になり過ぎた場所があったとふりかえっていたが、逆転するには残された距離は少なくなりつつあるが、はたしてオジエはこのステージをはっきりとペースを落としてフィニッシュする。「最初のステージを走ったところで終わっていた、僕たちはこの週末の仕事十分にできたけど、(ティエリーが)ほとんど飛ぶように走っているようだったし、彼は本当に良い走りができていた」

 ヌーヴィルは中間地点のスプリットタイムで1.4秒遅れたが、その後ペースを挽回、最終的にエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)に0.2秒差でベストタイムを奪うことになった。2位のオジエは5.5秒差の4番手タイムに終わったため、ヌーヴィルは残り1ステージでアドバンテージを13.5秒へと広げることになった。

 ステージエンドで自身のタイムを知るやヘルメットを脱いで、ほっとしたような表情を浮かべたヌーヴィルは「最初の方は思っていたより滑りやすくて、かなり汚れてきていたのでスピードを判断するのが難しかった。今のところいい感じだけど、まだあと1ステージ残っているし、集中を切らさないようにしなければならない」

 そして迎えた最終ステージのパワーステージは、ツイスティな崖っぷちの上りを有名なチュリニ峠へと駆け上がる走るSS17ラ・ボレーヌ・ヴェジュビー〜コル・デ・チュリニだ。

 今季から日曜日は「スーパーサンデー」と称して独自の選手権ポイントが与えられることもあってか、ヌーヴィルはこれだけのリードを手にしながらも最終ステージで最大限にプッシュ、総合優勝を飾るとともに、スーパーサンデーの最大ポイント7ポイント、さらにパワーステージの最大ポイント5ポイントを加え、この週末に獲得できる最大30ポイントを獲得し、2024年シーズンを完璧な形でスタートさせた。

「正直に言って完璧だったという以外に言葉がないよ」とヌーヴィルはステージエンドで語った。これが彼にとって記念すべきWRC 20勝目となった。

「今週末はとても素晴らしく、マシンも本当に快適だった。チーム全体が素晴らしい仕事をし、すべてのパッケージがとても上手く機能していた。僕たちは作業を続ける必要があるが、このラリーを勝利できて本当にうれしい」

 オジエは2位でフィニッシュ、惜しくも記録的な10勝目はならなかった。彼はラリー中に複雑な感情がこみ上げ、涙を見せることもあったが、ラリーウィークのはじめに親族に不幸があったことをステージエンドで明かすとともに、表彰台でシャンパンを抜くことなくモンテをあとにしている。

「ティエリーとの素晴らしいバトルだった。彼は素晴らしい仕事をしたし、今週末の彼は本当に速かった。僕にとっては感情のジェットコースターだった。特に金曜日は苦労した。月曜日に僕にとってとても大切な人に別れを告げなければならず、とても辛かった。僕に初めてのカートを買ってくれた人で、その人のおかげで僕はモータースポーツでのキャリアをスタートしたんだ。別れはいつも辛いことだが、あまりに突然の別れだった・・・」

 総合3位はエヴァンス。彼は土曜日の朝、ハイブリッドの問題から首位を失い、さらに午後のループではマシンのフィーリングも悪く、ペースが上がらなかったため優勝争いから脱落することになった。それでも最終日、今季から独立して選手権ポイントが与えられるスーパーサンデーのプッシュを誓ったが、ヌーヴィルには最後まで及ばず、悔しさとともに3位ポディウムに立った。「今週末は勝つほどの速さがなかった。ポテンシャルはあったが、土曜日の午後はまったく上手くいかなかった。このステージはまあまあだったが、後半はタイヤが悲鳴を上げていた。これが現状だ」

 総合4位でフィニッシュしたのはヒョンデの復帰戦となったオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)だ。彼は金曜日にブラックアイスでミスしたことで表彰台争いから脱落したが、5本のフレッシュタイヤを温存して日曜日に大きなポイントを獲得することを目指して最終日に臨んだが、最終的にはチームの選手権のためにも無理をせずにポイントを持ち帰ることを選んだようだ。「僕たちは(4位を)獲得する必要があった。簡単なイベントではなく、学ぶことが沢山あった。とにかく、もう終わったので、次に目を向けよう」

 2年前のモンテでの大きなクラッシュで長いスランプに陥ったアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)は、Mスポーツからの絶対完走の指令のもと、着実なペースをみせて総合5位でフィニッシュ、足踏みしていたキャリアをふたたび前に進めることになった。「チュリニ峠の頂上で、このラリーを無事に終えることができて本当にハッピーだ。まだ改善すべき点がいくつかあるが、最初のラリーとしては非常に良かったので、僕は前向きに捉えている」

 アンドレアス・ミケルセン(ヒョンデi20 N Rally1)はRally1カーデビュー戦のモンテカルロを総合6位でフィニッシュ。もう少し時間をかければマシンでのポテンシャルを最大限に引き出すことができるはずだとこの週末のペースを喜んだ。

 金曜日のオフで5分あまりのタイムロスをしてしまった勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)は、最終ステージでこの週末4度目となる3番手タイムを獲得、パワーステージのボーナスを追加することに成功している。「良いステージもあれば、悪いステージもあった。金曜日の朝に、それ以上順位を競う機会を失ってしまい、非常に残念だった。次のラリーは全開で走るラリーになるだろうし、僕の好きなラリーだ。スウェーデンではとにかく全開で走りたい」

 開幕戦モンテカルロを終えて、ドライバーズ選手権ではヌーヴィルが30ポイントでリード、オジエが24ポイント、エヴァンスが21ポイント、タナクが15ポイントで続き、勝田も9ポイントを獲得してワークスドライバーとしてのフルシーズン初戦をスタートしている。

 マニュファクチャラー選手権では、表彰台に2人を送り込んだトヨタが46ポイントで選手権をリード、1ポイント差でヒョンデが続くことになった。