WRC2021/08/16

ヌーヴィルが母国ベルギー優勝、ヒュンダイが1-2

(c)Hyundai

(c)Toyota

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 2021年世界ラリー選手権(WRC)第8戦イープル・ラリー・ベルギーが15日に最終日を迎え、地元ベルギー出身のティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)が今季初勝利を飾るとともにドライバーズ選手権2位タイへと浮上している。

 ベルギーでのWRC初開催となったイープル・ラリーの最終日は、二日間にわたるイープル市を離れ、300km近いロードセクションを移動してベルギー東部のスパへと向かい、スパ・フランコルシャン・サーキットを中心として近隣の一般道をつないだ2ステージを2回ループするわずか40.52kmで争われる。

 SS17/19のスタヴロー(9.05km)は近隣のシニュー村やリヴァージュ村のテクニカルでナローな田舎道の後、スパ・フランコルシャンのレーストラックに入っていく。コース内の狭いサービスロードを走ったあと、GPコースに合流、レ・コーム、リヴァージュからプーオンの連続するコーナーに沿って走ったあとスタヴロー・コーナーでゴールする。

 また、SS18/20のフランコルシャン(11.21km)も近隣のスタヴロー村をスタート、森のなかの起伏のある曲がりくねった狭くハイスピードな道を駆け抜けてGPコースの新しいグランドスタンド付近でサーキット内へ進入、右ヘアピンのラ・スルスを抜けて下り坂を高速で駆け抜けたあと、高速左コーナーのオー・ルージュのあとの上り坂のラディオンの途中でGPコースを左に逸れて世界ラリークロス選手権で使用されるグラベルトラックを走ってゴールを迎える。

 最終日はノーサービスの一日となり、スパ-フランコルシャンに到着したラリーカーは、タイヤフィッティングゾーンでタイヤを装着後、ステージへと向かって行く。雨の予報はなく、ほとんどのドライバーたちがオールハードをチョイスした。

 土曜日を終えて1-2態勢を形成するヒュンダイはチームオーダーによって、チームメイト同士の不要な争いを避けて、マニュファクチャラー・ポイントを確実にもちかえるよう首位のヌーヴィルと10.1秒差の2位につけるブリーンに厳命しており、すでに二人の勝負は決している。

 だが、オープニングステージのSS17スタヴローでブリーンにヒヤリとした瞬間が待っていた。彼は狭くなったハイスピードのセクションでバンクに乗り上げてタイムをロス、二人の差はここで16.3秒へと広がってしまってしまった。300kmという長い「スリーピングロードセクション」が緊張感を失わせたのか、あるいは勝利という目標を失ったことによってリズムを欠いたのか、「ちょっと追い込まれてしまった。あとは慎重にやらなければならない」と、ブリーンはかなり悔しそうな表情をみせた。それでもブリーンの後方、3位のトヨタ勢とは30秒近くの差がついており、追いつかれそうな心配はない。

 接戦を繰り広げているトヨタの3台はわずか4.3秒差で最終日を迎えており、ここでベストタイムを刻んだカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)がエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)の1.7秒差の背後へぴたりと迫ることになった。「まだまだ十分過ぎないと思う。エルフィンに対して僕たちに何ができるか見ていこう」と、エストニアで初の勝利を飾ったばかりの20歳は静かな口調ながら表彰台への強い野心をみせる。

 一方、わずか1秒差の後方からロヴァンペラにプレッシャーをかけようとしていたセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)はここで左リヤタイヤをパンクしてチームメイトからは9.2秒遅れとなり、表彰台争いからは脱落することになる。「かなりタイムロスしてしまった。レッキの時はもっとずっとナローだった場所がある。サーフェイスをやり直してもっとワイドになっていたから、それを予測するのが難しかった。僕は少しワイドに行ってしまった」

 ロヴァンペラは続くSS18フランコルシャンでオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)に続く2番手タイムを奪い、エヴァンスを捕らえるとともに3.9秒差をつけて3位へと浮上することになった。

 エヴァンスはあまりタイム差がつかないはずの11.21kmで5.6秒も遅れた理由を聞かれた、とくにミスをしたわけでないと答えたものの、明らかに自らのペースに動揺しているようだった。「特に何もない。前のステージでワイルドに走りすぎたので、それを修正しようとしたが、今は十分にプッシュできていなかったことはたしかだ」

 ヌーヴィルは、ここでブリーンに1.4秒差をつけられて、アドバンテージを14.9秒としたものの、残り2ステージとなった今、もはや彼の勝利を阻むものはなくなった。「道路に集中して、カットすることや石を避け、クリーンに走った。かなり注意したよ」

 SS17のリピートとなるSS19は、タナクが連続してベストタイム。彼はすでに土曜日のパンクでオジエから3分近く遅れた6位に沈んでいるが、チームの選手権のためにもペースとリズムを掴んで最後のパワーステージに臨むだけだ。「とにかく自分たちの仕事をやるだけで、仕事をするということは走ることだ」

 ここでの2番手タイムはヌーヴィル、そしてロヴァンペラが3位を死守すべく、3番手タイムでエヴァンスを5秒差へと突き放す。2位のブリーンはここではトップタイムから10秒もの遅れとなったものの、後方のロヴァンペラに対して17.5秒という十分なリードを残している。

 そして迎えた最終ステージ、SS20フランコルシャンでヌーヴィルは3番手タイムで駆け抜けて、昨年のラリー・モンテカルロ以来となる今季初勝利を飾ることになった。今季からコンビを組む、コドライバーのマルテイン・ウィダーゲにとってはWRC初優勝だ。

 ゴールしたあとスタンドに埋め尽くしたファンを前にしてドーナツターンを何度も行い、抑えきれない喜びを爆発させたヌーヴィルは、初開催のベルギーへのプレッシャーもずっとあったと告白した。「ここに来るまでは大きなプレッシャーがあったが、今週末はずっと快適に過ごすことができ、チームとマシンを信頼することができた。このベルギーで、マルティンに初優勝をプレゼントできたことは、僕にとってもうれしいことだ。今季はもっと早く優勝できるはずだったが、運が悪かった。今は、ここにいられて最高の気分だよ」

 ブリーンはここでもペースを落として着実にフィニッシュ、ヌーヴィルからは30.7秒差をつけられたものの、エストニアに続いて2位でゴールすることになった。「このマシンをドライブするのは本当に楽しい。この週末、最高の仕事をしてくれたみんなに感謝している。すべての瞬間を楽しむことができた」

 最終日はトヨタの3人による表彰台争いとなったが、ロヴァンペラがターマックラリーで初めてWRCの表彰台を獲得することになり、6.5秒差の4位にエヴァンス、5位にオジエが続くことになり、パワーステージを制したタナクが6位でのフィニッシュを迎えている。

 イープル・ラリーを終えて、ドライバーズ選手権ではオジエが162ポイントを獲得してリードをキープ、総合順位ではオジエを上回ったエヴァンスはパワーステージで2番手タイムのライバルに対して5番手タイムにとどまったため、124ポイントにとどまることになり、選手権での遅れは37ポイント差から38ポイント差へと広げられることになってしまった。また、優勝したヌーヴィルはパワーステージでのボーナス3ポイントを重ねて、ランキングではエヴァンスと同ポイントで2位で並ぶことになった。

 また、マニュファクチャラー選手権ではトヨタGAZOOレーシングWRTが348ポイントを獲得してランキングトップを維持したものの、1-2勝利を飾ったヒュンダイも307ポイントへと躍進、59ポイント差を41ポイント差へと縮めることに成功している。

 今季WRCは残すところあと4戦となる。次戦は9月9〜12日に開催される第9戦アクロポリス・ラリー・ギリシャとなる。