WRC2024/01/28

ヌーヴィルとオジエが熾烈なトップ争い

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 2024年世界ラリー選手権(WRC)開幕戦のラリー・モンテカルロのデイ3は、ヒョンデ・モータースポーツのティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)がセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)との激しいトップ争いのすえに3.3秒差でラリーリーダーに立っている。

 ラリー・モンテカルロの土曜日は、ギャップの西部にあるエスパラン〜オーゼ(18.79km)、レ・ノニエール〜シシリアンヌ(20.04km)、ペラフォル〜アニェール・アン・デヴォリュイ(21.37km)の3ステージをギャップのサービスを挟んで2回ループする6SS/120.40kmの一日となる。

 ギャップのエリアは前日よりも冷え込んだ朝を迎えており、オープニングステージのSS9エスパラン〜オーゼの観客たちが吐く息は白く、山頂近くや渓谷にはかなり霜が下りたセクションやブラックアイスも残っている。

 首位から16.1秒遅れの3位で土曜日を迎えたヌーヴィルは、アグレッシブなコースでいきなり目の醒めるような走りをみせてベストタイム、オジエを抜いて2位へと浮上するとともに、首位のエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)に6.5秒差に迫ることになった。「おそらく僕は今朝はよく目が覚めていたのだろう!正直に言うとコンディションはもっと悪くなると予想していたが、まずまずの走りができた」とヌーヴィルは自信の笑みをみせた。

 予想よりいいコンディションだったと語ったヌーヴィルに対して、エヴァンスは思ったよりも霜やアイスが残っていたため、グリップの判断が難しかったと首をかしげる。「判断が難しい。非常にスリッパリーな場所もあれば、フルグリップがあるように見えて霜がある場所もある。本当に難しかった」

 ヌーヴィルより18.8秒も遅く、7.2秒の遅れの総合3位に後退したオジエもまたノートの情報が安全過ぎたと焦りをみせる。「大きくタイムを失った。たぶん僕の持っている情報が安全寄りすぎた」

 それでもオジエはSS10レ・ノニエール〜シシリアンヌでベストタイムを奪って反撃、「最初のステージは酷かった。あんなに多くのタイムを失って残念だが、僕たちにできることは前を向いてプッシュし続けることだけだ」

 ヌーヴィルは2.1秒差をつけられたものの2番手タイムで続き、ハイブリッドブーストを失ってペースを落としたエヴァンスを捕らえ、0.9秒差で首位に立つことになった。トップ3は5.1秒という僅差のバトルに。

 ヌーヴィルの勢いは止まらない。彼はSS11ペラフォル〜アニェール・アン・デヴォリュイでもベストタイム、2位のエヴァンスとの差を5.1秒に広げて朝のループを終えることになった。「リスクは冒さなかったが、ときどきノートがよく理解できずに躊躇してしまい、そこで少しタイムを失った。ペースノートが終盤に向けて少しスローだったが、ここは新しいステージなので、できる限りのことをするしかない」

 ヌーヴィルはノートの情報に苦しんだと語ったが、ルートノートクルーの仕事は最大限に評価している。「正直、こんなに差が開くとは思っていなかった。ライバルも同じようにうまくいくと思っていたけれどね。昨日と比べて今回はいい情報があったし、それが明らかに僕らの違いを生んでいる」。

 オジエは村のなかのジャンクションでワイドになってリヤをバンクにヒット、幸いにも大きなトラブルには至らなかったが、首位のヌーヴィルからは7.7秒遅れとなっており、この日の最初のステージで18秒も遅れたことが心に重くのしかかっている。「朝、こんなにタイムをロスしなければもっと良かったんだけどね・・・」。それでも彼はエヴァンスの2.8秒後方まで迫ってきた。「(10勝の)可能性もあるだろうけれど、これからは何も失う時間はない。すべてを完璧にこなし、最後までプッシュする時だ」

 タナクの土曜日はけっしていい朝ではなかった。パルクフェルメでヒョンデi20 N Rally1をスタートさせることができず、マルティン・ヤルヴェオヤとともに押してタイムコントロールにチェックインしたあとチームのサポートカーでチームのサービステントまで牽引されている。問題はサービスで完全に解決し、彼はSS9を無事にスタートしたが、木曜日の夜と同じくアクセルオフしたときのエンジンの反応にふたたび問題が発生、総合4位につけているもののトップ3からは1分以上も離れてしまった。それでもSS11ではヌーヴィルとベストタイムを分け合い、少しずつ新しいマシンへの手応えも増えている。

 朝は肌寒かったが、ギャップのサービスは昼前には気温が14度まで上昇している。ギャップでのサービスを挟み、午後のセクションの最初のステージのエスパラン〜オーゼは朝のループでは霜とアイスがドライバーたちを苦しめたが、今度はかきだされたダートがコースを汚している。

 このリスキーなコンディションでまるでそれまでとは一段ギヤを上げたかのような速さをみせたのはオジエだ。彼は朝のループのあとの決意を実行に移し、エヴァンスには16.9秒もの大差をつけるベストタイムを奪い、一気に14.3秒差をつけて逆転、2位へと浮上する。さらに首位のヌーヴィルを5.5秒上回り、その差を2.2秒まで縮めてきた。

 オジエはリスクを冒す必要があったと認めたが、チームメイトに痛恨の一撃を与えるには十分なタイムだった。エヴァンスは何かのトラブルだったのかと聞かれ、信じられないタイム差に言葉を失う。「分からない・・・(この遅れは)大きなサプライズだ。本当にひどくて驚いているよ。フィーリングは決して良かったとは言えないけど、ちょっとひど過ぎた」

 オジエはSS13レ・ノニエール〜シシリアンヌでもヌーヴィルに3秒差をつけるベストタイム、0.8秒差ながらこの週末初めてラリーをリードすることになった。彼にとっては通算700回目のステージウィン達成だ。「まだまだプッシュし続ける必要がある。すごく接戦だからね。すごくいいよ、(こうして戦えること)は大好きだし、ファンにとってもいいことだ。今こそ、抑える時ではない、とにかくプッシュしていくしかない」

 そして、この日の最終ステージとなるSS14ペラフォル〜アニェール・アン・デヴォリュイ。森のなかの路面はかなり湿ったところが残り、かき出された土と砂利で汚れたところも多い。この難しいコンディションのなか、午後のループでオジエに一歩及ばないタイムに甘んじていたヌーヴィルが、ひやりとさせるほどのアグレッシブな走りをみせてベストタイムを獲得する。これで彼は、オジエから3.3秒差でトップを奪い返してオーバーナイトリーダーとなった。「いいステージを走れた、完璧だったよ。すべてがうまくいって、クルマを本当に楽しむことができた、素晴らしかった!」

 今季から導入された新しい選手権のポイントシステムによって、ヌーヴィルは土曜日までの時点での最大ポイントである18ポイントを暫定ながら確定、あとは明日どのようなトラブルがあって順位を下げてもフィニッシュすれば、このポイントを正式に獲得する。

「今晩ポイントを獲得することは大事だが、クルマをコースにしっかりととどめておくことも重要だった。良いフィーリングが得られたから思い切り頑張ったし、それが報われたようだ」とヌーヴィルは付け加えている。

 オジエはヌーヴィルのパフォーマンスを素直に称えながらも、明日はさらにプッシュして10回目のモンテ勝利に挑むつもりだ。「僕はラリーの最初の方からずっとトライし続けてきた。ここでもそれは変わりなかったけどティエリーの方がいいステージを走ったんだ。明日はさらに頑張っていく必要がありそうだ」

 一方、エヴァンスはここでもフロントのグリップに苦しみ、トップから34.9秒遅れ、優勝争いから完全に外れてしまったが、明日は新しい一日が始まると気を引きしめた。「午後は期待していたようにはいかなかった。なぜだか、フィーリングがもともとの感じとは違ってしまっていたが、それが現実だ。新しい選手権ポイントのフォーマットだと、明日新しい1日が始まるような感じだからそんな気持ちで臨みたいと思う」

 総合4位につけるタナクはアンチラグの不具合に悩まされることになったが、ペースが上がらなかったのはそれだけが原因ではない。表彰台争いから大きく外れたとはいえ、彼は、明日の最終日に向けて5本ないし6本のフレッシュタイヤを温存することに成功していると見られており、スーパーサンデーの最大ポイントとなる12ポイントの獲得を目指す。

 5位にはここまでミスのない堅実な走りでアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)が続いている。チームメイトのグレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)は6位につけていたが、SS12でブラインドの左コーナーでグラベルに乗ってアームコバリアーにクラッシュ、リタイアとなっている。

 代わって7位となったのはアンドレアス・ミケルセン(ヒョンデi20 N Rally1)。Rally1デビュー戦の彼だが、少しずつ新しいマシンをつかみ始めることができていると語っている。「今日はとにかく学ぶことが大事で、そしてポジティブな1日だったと言わないとね。明日はさらに前進を続けていけることを期待している」

 金曜日のオフで5分あまりのタイムロスをしてしまった勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)は12位までポジションを落とし、一番手の走行ポジションで迎えた土曜日、SS10ではこの週末最速の3番手タイムを記録、さらにSS11、SS12でも連続して3番手タイム、グリップの変化が激しいステージでのドライビングも楽しみ始めながら総合7位までポジションを戻している。「グリップの変化が多くて非常にトリッキーだった。午後はそんなにいいコンディションではなかった。でも大丈夫、ドライビングを楽しみ始めることができたからね」

 以前のギャップをベースとしたモンテカルロは土曜日のステージを終えたあと、夜のうちにモナコまで250kmのロードセクションを移動しなければならなかったが、2024年はこのままギャップでのナイトホルトとなる。

 日曜日の朝、ラリーカーはモナコを目指して南下、3SS/52.12kmの短い一日となる。オープニングSSのラ・ブレオル〜セロネは現地時間7時4分、日本時間15時4分のスタートが予定される。