2024年世界ラリー選手権(WRC)最終戦のフォーラムエイト・ラリー・ジャパンは、最終日の朝、ラリーリーダーのオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)がクラッシュするという波乱が発生、その瞬間にティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)の初のタイトルが決まることになった。これによってマニュファクチャラー選手権の行方もまったくわからないものとなったが、パワーステージでのボーナスポイントを加えたヒョンデがチームのタイトルも決めることになった。また、エルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が昨年のラリー・ジャパン以来1年ぶりにホームで優勝を飾ってシーズンを締めくくっている。
ラリー・ジャパンの最終日は豊田市と岡崎市が舞台にした5SS/70.57kmの一日となる。オープニングステージのヌカタ(20.23km)に続き、これまでのリバース方向での走行となるレイク・ミカワコ(13.98km)、さらにヌカタ・ステージの2回目を走行した後、豊田スタジアムに戻ってトヨタ・スタジアム・スーパーSSの走行を行う。15分のサービスのあとでふたたびラリーカーは三河湖へ向かい、レイク・ミカワコの2回目の走行がパワーステージとして行われる。
ヌカタ・ステージは昨年まではいわゆるジャパンを象徴する狭い林道のセクションでのスタートだったが、新たにラリー・デ・エスパーニャを彷彿とさせる超高速セクションからスタートへ。 5km地点から昨年のコースに合流したあともワイドな高速セクションが続くが、8.62km地点の千万町からふたたび狭い林道へ。センターは苔むして滑りやすく、側溝や縁石が見えないくらい落ち葉と泥でスリッパリーとなったセクションのあとまたもワイドな高速の道路に戻り、終盤には2kmほどのナローなセクションが追加されている。
最終日はこのヌカタ・ステージでの衝撃とともに始まることになった。ラリーリーダーとして最終日をスタートしたタナクが20.23kmのこのステージのフィニッシュまで残り1kmに満たない右コーナーでかきだされた泥に乗ってマシンをスライドさせてクラッシュ、ディッチに転落してリタイアとなってしまった。
この時点でヌーヴィルとコドライバーのマルテイン・ウィダーゲのワールドチャンピオンが決まることになり、RallyTVの中継ではマシンに搭載されたカメラは、ロードセクションでマシンを止めて携帯で中継映像を観ていた二人がニュースを知って複雑な表情をうかべながらも抱き合ってタイトルを喜ぶシーンを映し出していた。
ドライバーズ選手権が決まる一方で、マニュファクチャラー選手権についてはタナクの土曜日までの18ポイントがノーポイントとなるため、土曜日を終えた時点で暫定ながらトヨタが4ポイント差をつけて逆転したことになった。しかし、最終日にはスーパーサンデーとパワーステージのボーナスポイントが残されており、タイトルをめぐるバトルはまだまったくわからない状況だ。
波乱のオープニングステージを終えてエヴァンスがラリーリーダーに浮上、オジエが2位で続き、トヨタが1-2体制を築くことになった。
タナクは衝撃的なアクシデントの直後、RallyTVのインタビューで問題のコーナーな非常に汚れていたと告白している。「・・・かなりのダートがでていたのは驚きだった。フロントがスライドしてアンダーステアになってしまいそれでコースオフしたんだ。他に言うことはないよ」とタナクは語っている。
タナクがオフしたこの場所では、WRC2の4位につけていたヘイッキ・コヴァライネン(トヨタGRヤリスRally2)が同じようにコースオフ、タナクのマシンに乗り上げるようにマシンを止める、まさしく悪夢のコーナーとなった。タナクは自身がタイトルを失い、マニュファクチャラー選手権も厳しい状況となったことについて聞かれ、「完全に台無しだよ・・」と言葉少なく答えて立ち去っている。
続くSS18レイク・ミカワコは昨年とはリバースでの逆向きのステージとなる。狭く、バンピーでスイスティな下りの連続コーナーはグリップが低く滑りやすく、ときおり立ち木のすき間から湖面が覗き、アクセルを踏むのを躊躇するほどの息を飲む景観が続く。熊野神社の90度ターンを左折、村のなかの狭くトリッキーなセクションのあと、コースの終盤は新しい高速セクションとスムースな路面とバンピーな路面がミックスした複雑なセクションを走ってゴールを迎える。
すでにドライバーズタイトルを決めたヌーヴィルがベストタイム。もし仮に彼はこのあとリタイアとなっても彼のこのタイトルを失うことはない。彼は、この時点でトヨタに逆転されてしまったヒョンデのマニュファクチャラー選手権での逆転を目指してプッシュしたことを認める。
ヌーヴィルはステージエンドでガッツポーズをして笑顔をみせた。「正直、驚いた。今この瞬間には言葉が出てこないが、僕たちは(タイトルに)相応しいと思う。非常にチャレンジングで、非常に厳しい一年だった。特にこの最後のイベントでは、必要以上にプレッシャーがあった。リスクもあったが、僕たちはそれを上手く管理した」
「今はもう少しリラックスできているので、マニュファクチュラーズタイトルに向けてもっとプッシュすることができる。すべてのトロフィーを持ち帰りたい。失うものはあまり無いのでマニュファクチュラーズタイトルのために全力を尽くすよ」
2番手タイムではチームメイトのアンドレアス・ミケルセン(ヒョンデi20 N Raly1)が続く。一番手でコースを走る彼はもっともクリーンな路面を走ることができるため、SS17ヌカタでもベストタイムで発進している。走行順では前日まで遅れていたヒョンデ勢がトヨタ勢より有利な走行順でコースを走ることができるため、明らかに有利な状況にある。スーパーサンデーでは2つのステージを終えた時点でミケルセンがトップ、ヌーヴィルが2番手で続き、ヒョンデが1-2体制でリードしている。
マニュファクチャラー選手権での暫定ポイントは、ここでヒョンデとトヨタは553ポイントというまったく同ポイントで並び、タイトルの行方は最後のパワーステージのボーナスポイント勝負となりそうだ。
ラリーはエヴァンスがリード、オジエが1分37秒差の2位で続き、トヨタが1-2体制をキープしている。エヴァンスは、コースが非常に汚れているため、かなりペースを落とすコーナーもあったと額の汗を光らせる。チームのためにもスーパーサンデーでより多くのポイントを持ち帰りたいところだが、ミスすれば自身の勝利だけでなく、これらすべてを台無しにする恐れもある。「僕たちは自分の計画を守り、その中で何が可能か見てみよう。場所によっては汚れていて落ち葉がたくさんあるので、グリップを見極めるのがかなり難しいよ」
2位につけるオジエはトヨタのタイトルのために最後までプッシュすると誓っていた。「(タナクのクラッシュは)決してうれしいことではない。彼らは無事だと聞いた。それが一番重要なことだ。これまで良いレースをしていたし、オイットが今どんな気持ちか痛いほどわかるので、気の毒に思う。(マニュファクチュラーズタイトル争いは)非常に接戦だ、僕らは全力を尽くしていく。どうなるかな」
ヌカタ・ステージの2回目の走行となるSS19ではオジエはヌーヴィルと並んでベストタイム、ミケルセンが3番手で続き、スーパーサンデーではヒョンデが引き続き1-2をキープしている。エヴァンスは首位をキープしたが、ナローな森のなかのセクションはかき出された枯れ葉と泥できわめてスリッパリーになっているため慎重なペースで行ったと認めている。2位のオジエとは1分31.2秒もの大差を築いている。
ラリーカーはこのあとトヨタ・スタジアムのサービスに戻ってマシンをリフレッシュ、トヨタ・スタジアム・スーパーSSの3回目の走行として行われたSS20ではスタンドを埋め尽くした大観衆に見守られるなか勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)がトップタイムを奪い、これまでチーム戦略のなかでペースを上げられないもどかしさのなかで週末を戦ってきた彼もここでやっと笑顔を見せている。「こういうステージを走れるのはいいものだし、たくさんの人が集まってくれるのも嬉しい。(ここでは)こんなにたくさんの日本のファンたちの前では負けられないからね! もちろん僕の最大の目標はパワーステージでしっかりプッシュすること。このために週末ずっと待っていたんだ。だからフラットアウト、ひたすら全開だ!」
ドライバーたちはトヨタ・スタジアムを離れ、最後の決戦の舞台となるシーズンのフィナーレのSS21レイク・ミカワコへと向かって行く。ヒョンデとトヨタはここまでの1年という長いシーズンを戦いながら、マニュファクチャラー選手権では暫定ながらまったく同ポイントで並び、完全にパワーステージのボーナスポイント勝負となっている。
パワーステージでは各チームとも上位2人のポイントがマニュファクチャラー選手権ポイントとしてカウントされるが、3人のドライバーが残るトヨタに対してヒョンデはポイントのチャンスは2人に絞られているため、この点ではトヨタに有利な状況だ。しかも勝田だけがスペアタイヤを搭載しないで最後のループをスタートしており、軽量マシンで勝負をかける戦略だ。とはいえ、路面はカットで後方になるほど汚れることになるため、そういう意味では前方のクリーンな路面で走るヒョンデにとって圧倒的に有利な条件だ。
ミカワコのパワーステージはミケルセンがコースオフして立ち木でフロントフェンダーを壊しながらもフィニッシュするというドラマとともにスタート、彼はチームの選手権のために役立てなかったと語り、首をうなだれている。
ヌーヴィルはすべてを賭けた走りをみせてパワーステージをフィニッシュ、新チャンピオンを祝うためにステージエンドで待っていた家族やベルギーファンたちと勝利を喜びあうともに、何度も雄叫びを上げている。「正直に言って最高の気分だ。(チャンピオンシップのために)長い間努力してきた。とても幸せだ。言葉が見つからないが、すべての人々に感謝したい。あと一歩のところまで何度も近づき、常に全力を尽くしてきたが、それがようやく報われた」
パワーステージでは後続の勝田が渾身のアタックをみせたが、ヌーヴィルのタイムを破ることはできず、後続のチームメイトに逆転を託す。そして、オジエが王者の意地をみせるような素晴らしい速さをみせてパワーステージに勝利し、エヴァンスがジャパン勝利のフィニッシュを迎えた瞬間、トヨタがたった3ポイントの差ながら逆転で4年連続のマニュファクチャラー選手権タイトルを決めることになった。
オジエにとって終盤戦は厳しい結果が続いてきたが、やっと安堵したように彼は笑みをみせている。「素晴らしいステージだった!ここは僕に合ったラリーだ。シーズンの目標を達成できた。少し家でゆっくりするつもりだが、こういうふうにラリーが楽しめる限りはまた参戦したいね」
エヴァンスにとっては通算9勝目、昨年のジャパン以来、1年ぶりの勝利となった。「一時はあまり調子が良くなかったけど、結果には本当に満足している。チームのためにもとてもうれしい。チームメイトにも感謝している。彼らは素晴らしい仕事をしてくれた。もう一つのチャンピオンシップ(ドライバーズ選手権)を獲得できなかったのは残念だけれど、来年また挑戦するつもりだ」
最終戦のラリー・ジャパンを終えて、ドライバーズ選手権では、初のワールドチャンピオンに輝いたヌーヴィルが242ポイントで今季を終えており、最終戦で今季初勝利を飾ったエヴァンスが210ポイントで選手権の2位へ、タナクは200ポイントのまま選手権3位に後退することになった。4位はオジエ、5位はフールモー、勝田は6位でシーズンを終えている。