WRC2024/09/09

ヌーヴィル歓喜ギリシャ勝利、ヒョンデ表彰台独占

(c)Hyundai

(c)Toyota

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 2024年世界ラリー選手権(WRC)第10戦アクロポリス・ラリー・ギリシャは、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が最終ステージでクラッシュするという波乱の幕切れとなり、ヒョンデ・モータースポーツが1-2-3勝利を達成、ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)が開幕戦ラリー・モンテカルロ以来となる2勝目を飾り、初のワールドチャンピオンに向けてまた一歩近づくことになった。

 アクロポリス・ラリー・ギリシャの最終日は、前夜にサービスが行われなかったため、朝6時から異例ともいえる45分間のサービスから始まり、クルーたちはリフレッシュされたマシンで最終日の舞台へと向かう。SS13イノホリ(17.47km)、SS14エレフテロホリ(18.29km)のあとラミアでの15分のサービスが設けられ、パワーステージのSS15エレフテロホリでラリーはフィナーレを迎える。

 アクロポリス・ラリーの土曜日まで終えて首位のヌーヴィルは53.7秒という大きなアドバンテージを築いており、2位で続くチームメイトのダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)と3位のオジエとの差は27.2秒だ。

 オープニングステージのSS13イノホリで素晴らしい速さをみせたのはオジエだ。金曜日のターボトラブルで首位のヌーヴィルからは1分20秒あまりも遅れている状況だが、9度目のワールドチャンピオンを狙う彼としては、選手権リーダーのヌーヴィルからポイントを奪い返すべく、スーパーサンデーとパワーステージのボーナスポイントでフルポイントを狙いたいところだろう。

 オジエはこの週末、7度目となるベストタイムを奪い、27.2秒差だったダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)を一気に逆転、4.7秒もの差をつけて総合2位へと浮上することになった。「この週末ずっとそうやって攻めてきたが、まだ終わっていない。ステージは滑りやすいよ」

 オジエから31秒も遅れた8番手タイムに終わったソルドは、何か問題があるか聞かれたが、自身の腕の問題だとうそぶいた。「クルマはいいんだ。たぶん僕はラリーが苦手なんだろう。序盤は道路脇の小さな石にぶつかり、集中力を失ってハイブリッドにも問題が出てしまったので、とにかく集中して、ただ道の真ん中を走るだけだった」

 もちろんソルドの最終日の目標はオジエを抑えることでない。彼はすでに土曜日を2位で終えたことでチームの選手権のために15ポイントを確定しており、総合で3位にポジションを落とすことに大きな意味はない。それよりもチームの選手権のために絶対に完走してこのポイントを持ち帰ることがターゲットとなる。

 オジエに続く2番手タイムを叩きだしたのは総合4位につけるオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)だ。スーパーサンデーに向けて好スタートを切った彼だが、エンジンに気になる問題があると不満顔だ。「今朝はドラブルが多くて、まだエンジンにもトラブルが残っているから、今のところ簡単ではないよ」。彼はトラブルの詳細については答えなかった。

 ヌーヴィルは、この週末、リスクを最小限に抑えながらフィニッシュを目指すと語ってきたが、彼自身とヒョンデのためのミッションは完了に近づいている。「うまくマネージしながらも良いリズムを保つようにしている。それでも道はあまりに狭すぎて、すぐに石にヒットしてしまいそうだ。コミットが必要だ」

 SS14エレフテロホリは一晩中降り続いた大雨でマディなセクションが出現するというトリッキーなコンディションとなってドライバーたちを待ち受けていた。森のなかのセクションなどを除き、路面は急速に乾き始めているが、道路はこの週末で一番荒れており、かなり大きな石が転がり、バンピーなセクションにはいくつもの大きく突き出したベッドロックが露出するなど、2回目の走行として行われるパワーステージが思いやられるコンディションだ。

 ヌーヴィルは総合首位を堅持もこの危険なステージでは大きくペースダウン、2位のオジエに対するリードは1分2秒に減ったが、残りは1ステージのみだ。「道路は破壊されて、悪夢のようだ。とても慎重に走った。とにかくどんなトラブルも避けるためにね」

 2位につけるオジエが2連続でベストタイム、スーパーサンデーではタナクに13秒差をつけて暫定トップを維持している。「ターボのトラブルで2分半もロスしてしまった不運は痛かった。これがギリシャのラリーというものだ。でも、今はスーパーサンデーで(ポイントを)リカバリーしなければ、そしてパワーステージが重要になることは間違いない」

 総合4位につけるタナクとしてもスーパーサンデーでのポイントを確保するために全力を尽くすしかないが、これまでのところマシンは不完全な状態ではなさそうだ。「(語るべきことは)あまりない。安全を心がけた、とてもトリッキーなステージだ。(エンジンは)完全ではないので、これからサービスに入る」

 選手権で4位につけるエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)は金曜日のターボトラブルで10分以上も遅れ、さらに土曜日のアギイ・テオドリ・ステージの横転でチームはマシンのダメージを修理するために彼をリタイアさせている。総合25位で最終日にリスタートした彼は、この週末、ここまでノーポイントだけに、せめてスーパーサンデーのポイントでヌーヴィルを上回りたいところだが、ここでも選手権のライバルに遅れ手いる状況だ。「とても難しいコンディションだった。あとは、この日を走り切って自分たちとチームのために最高の仕事をするしかない」

 ラミアでの15分のサービスのあと、迎えたパワーステージのSS15エレフテロホリにはまさかの出来事が待っていた。総合2位につけてスーパーサンデーをリードしていたオジエが1.59kmでまさかの横転、マシンを止めてしまう。

 ヌーヴィルはこれがどれほど難しい週末の勝利だったかを物語っているかのようにフィニッシュラインを駆け抜けた瞬間、歓喜の雄叫びを上げている。通算21回目の勝利で選手権も大きく前進、彼はステージエンドで感極まったかのように勝利の喜びを語った。

「(オジエの横転については)まったく情報がなかった。マシンを見た時、それが(オジエのマシンかどうか)確信がなかったが、その時点から、無事にフィニッシュさせる必要があるだけだと理解した。昨日の朝から目標を達成するには無事にフィニッシュする必要があると分かっていた。チームと(コドライバーの)マルティンを本当に誇りに思うし、マシンを無事に最後まで持ち帰ることができたことが重要だった」

 オジエのストップで2位にはソルド、3位にはタナクがそれぞれポジションを上げ、ヒョンデが2年前に1-2-3フィニッシュを達成したときとまったく同じメンバーでふたたびポディウムを独占することになった。

 ソルドにとって58回目の表彰台、ギリシャでは3年連続の表彰台獲得となった。「僕たちは自分の仕事をした。そのためにここに来たからね。昨日はもっと戦いたかった。ヌーヴィルは素晴らしかった。オジエのことは残念だ。彼は戦士のようで、僕たちも彼のスピリットを愛している。きっともっと強くなって帰ってくるだろう」

 タナクは左フロントタイヤがスローパンクしながらも、パワーステージではトップタイムのアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)に続いて2番手タイムを奪うとともにスーパーサンデーを制することになった。彼にとっても50回目の表彰台獲得となった。「ギリシャはかなり運次第だし、僕たちのパンクも不運なものだった。難しいラリーだったよ」

 ヒョンデが表彰台独占を祝う頃、オジエはゆっくりとしたペースで走行を開始、23分近く遅れて最終順位も16位へと落とし、もちろん日曜日のポイント獲得はならなかったが、どうにか土曜日までのポイントだけは持ち帰っている。

 勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)は金曜日のアクシデントのため総合30位のフィニッシュとなっている。速さをみせながら悔しい週末となったが、最終日はパワーステージとスーパーサンデーで5番手タイムを奪い、チームの選手権にも貢献することになった。「(パワーステージでは)ステージの始めにハーフスピンしてしまい、パンクしてしまった。大した衝撃ではなかったが、仕方ない。次のイベントではもっと上手くやりたい」

 さまざまな波乱のドラマが発生した第10戦アクロポリス・ラリーを終え、ドライバーズ選手権では今季2勝目を飾ったヌーヴィルが192ポイントを獲得、タナクが2位へと浮上することになったが、ヌーヴィルは選手権のリードを27ポイントから34ポイント差へと拡大することに成功している。オジエは38ポイント差の選手権3位に後退、選手権4位のエヴァンスはまたも差をつけられてしまい、その差は52ポイントへと広がってしまった。

 また、マニュファクチャラー選手権では、1-2-3勝利を飾ったヒョンデがトヨタに対するリードを20ポイントから35ポイントへと拡大している。

 次戦は9月26日から29日にかけて行われるラリー・チリ・ビオビオだ。二人のワールドチャンピオンを加えた4台体制での参戦を決めたトヨタが選手権での遅れを挽回することができるだろうか。