2024年世界ラリー選手権(WRC)第7戦ラリー・ポーランドは金曜日を終えてヒョンデ・モータースポーツのアンドレアス・ミケルセン(ヒョンデi20 N Rally1)がラリーをリードするが、カッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が1.8秒差、エルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が2秒差で追い掛ける展開となっている。
青空の朝を迎えたミコワイキ。ラリーウィークが始まって以来、連日気温は上昇しており、金曜日の朝8時の気温はすでに26度まで上がり、暑い一日になることを予感させた。
この日はスタンチキ(29.40km)、ビエリチュキ(12.90km)、オレツコ(13.20km)の3ステージで構成される朝のループのあとミッドデイサービスは設けられず、オレツコのタイヤフィッティングゾーンを挟んで午後のループも同じ3ステージを走り、ミコワイキに戻ったあとコワイキ・アリーナの2回目の走行で締めくくる7SS/113.50kmの1日となる。
金曜日の朝にはサービスが設けられていないため、ドライバーたちは前夜のスーパーSSの前にチョイスしたタイヤセットのまま金曜日の朝のループを走り切らなければならない。すべてのドライバーがソフトコンパウント・タイヤを5本選んでいる。
オープニングステージのSS2スタンチキはラリー最長のステージだ。田園地帯の高速ステージは、雨上がりのなかで行われたレッキとは路面コンディションは大きく変わり、湿ってグリップがあるように感じられた路面はいまや大量のルースグラベルが覆われる完全なドライ路面となっており、ラリーカーの走行でダストが激しく巻き上げられる。
このステージでいきなり波乱が待っていた。前夜のミコワイキ・アリーナのスーパーSSを制してラリーをリードしていたオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が189km/hで走行している際にコースに飛びだした鹿に激突、フロントを大きく壊して18.3km地点でマシンを止めることになった。タナクは2016年と2017年のポーランドではいずれも最終日に勝利を失っており、ラリー前の記者会見では、「やり残した夢を果たすのが目標だ」と語っていたが、この週末に勝利とともに選手権を挽回する計画は思ってもみなかった不運の出来事で吹き飛んでしまった。
タナクに18ポイント差をつけてドライバーズ選手権をリードするティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は、一番手のポジションでコースクリーナーをしたため、わずか1ステージで22秒もの遅れを喫して8位に沈んでしまった。「路面にはルースグラベルが5cmも積もっている、これでは(追い上げる)チャンスはないよ」と彼は悲観的にコメントしたが、選手権のライバルがリタイアしたことで、少なくとも選手権の上ではプレッシャーがない戦いは可能となる。
ヒョンデのチームメイトたちがそれぞれ苦しいスタートとなるなか、8番手のポジションからスタートしたミケルセンがベストタイムでラリーリーダーに立つことになった。彼にとっては2019年のラリーGB以来、5年ぶりのステージウィンだ。「僕たちとして唯一できることは、ラインをキープすることを心がけて、ステージをアタックするだけだった。自信につながったし、確実にいいポジションをキープしているから、このままプッシュを続けていくよ」
0.3秒差の2番手タイムで続いたのは驚くことにこれがRally1カー・デビューのマルティンシュ・セスクス(フォード・プーマRallly1)だ。ノンハイブリッドのマシンながら9番手のスタートポジションにも助けられた彼はミケルセンから2.2秒差の2位へと浮上することになった。彼はステージエンドで自身のタイムを知らされ、目を丸くして言葉を失った。「えっ、僕が?何でそんなに速いの? なんで速いか聞かれてもわからないよ、今は考えないと!」
セスクスから7.3秒遅れの3番手タイムで3位に浮上したのはロヴァンペラだ。セバスチャン・オジエのレッキ中の事故により、ポーランドに到着するまでステージのビデオさえまったく見ていなかった彼は、準備不足のため、これ以上のリスクを負うことはできないと語っている。「ドライビングは本当に良くなかった、このラリーでは難しい。これ以上のリスクは負えないよ」
ロヴァンペラから0.1秒後方の4位にはチームメイトのエヴァンスとともにアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)が並び、さらにグレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が続くという展開だ。
この週末の最速ステージと言われるSS3ヴィエルチュキは、ヌーヴィル、エヴァンス、フールモー、勝田が走行したあとステージがストップ、その後、コースの安全性の問題からキャンセルとなった。トップタイムはヌーヴィルの5分56.0秒、平均速度は130km/hをオーバーした。このステージを走れなかったドライバーにはフールモーが出した5分56.7秒のノーショナルタイムが与えられている。
リーダーはミケルセンのまま、2.2秒差でセスクス、エヴァンスが0.1秒差でロヴァンペラを抜いて3位となった。
SS4オレツコ・ステージではミケルセンがふたたびベストタイム、2位のセスクスとの差を7.4秒差に広げて朝のループを終えることになった。「いいステージが走れた、自分たちのベストを尽くしたいと思っている、クルマはとても走りやすいし、路面はまだかなり滑りやすいから少し気をつけていかないとね」
セスクスは、ここだけでミケルセンより5.2秒遅れたが、がっかりするどころか楽しさのあまり笑みがこぼれる。「かなり慌ただしかったというかな。クルマというより、いくつか僕たちの方でうまくいかないところがあったんだ。まだ学んでいるという状況だからね。このクルマを走らせることができることがまだまだすごいことだって感じているよ」
エヴァンスは2番手という走行順となったことでタイムへの懸念もあったが、3位をキープしてみせた。「フィーリングはかなりいい。ちょっと滑りやすいが、全体的には問題はない」
ロヴァンペラはここではエヴァンスより2.2秒遅れのタイムにとどまり、2.3秒差の3位で朝のループを終えている。「そう簡単にはいかないね。昨日の夜はノートパソコンでビデオを見ていたら、そのままその上で寝落ちしてしまったよ。このロードポジションだと10秒は速いはずなんだけどね」
ロヴァンペラから0.9秒遅れの5位にはフールモー、さらに0.8秒差でチームメイトのミュンスターが続いている。ミュンスターはオレツコの有名な大きなジャンプの着地でコースを外れてクラッシュしそうになったが、どうにかラリーを終えずに済んでいる。「あの有名なジャンプではフラットで行こうと思っていたんだけど、着地はあまりうまくいかず、(コドライバーの)ルイ(・ルーカ)は息を整えなければならなかったんだ!」
コースオープナーのヌーヴィルは、ハンドブレーキがリヤだけでなく4輪すべてをロックするという技術的な問題によって何度かオーバーシュートを喫してしまい、トップから32.2秒遅れの7位となっている。「このループの中では最悪なステージになることはレッキで分かってはいたけど、どれほど苦戦するかは分からなかった」
マシンのフィーリングに苦しむ勝田はRally1最後方の8位だ。「走らせるのは簡単ではない。なんとか自分自身を向上させたいが、クルマにはなんとかしないといけない、とにかくまともにドライブすることができないんだ・・・」
金曜日にはミッドデイサービイスは設けられず、オレツコのタイヤフィッティングゾーンでのタイヤ選択と簡易的なサービスで午後のループをスタートする。午後からは曇って夕方近くからは雨の可能性もあると天気予報は伝えていたが、相変わらず青空が広がり、気温も30度まで上昇、路面温度は37度と報告されている。
ソフトなグラベル路面で行われるポーランドはオールソフトタイヤの週末になると見られていたが、あまりの高温にトヨタ勢とミケルセンは午後のループではハードを2本オプションとして選んでいる。しかし、午後遅くには雷雨の可能性もでてきただけに、どちらを選ぶにしてもまさしく祈るようなタイヤ選択だ。
SS5スタンチキは路面も荒れて深いわだちが刻まれており、すべてのドライバーがソフトタイヤをかなり摩耗させてステージを終えている。一方でハードタイヤはまだブロックが残っており、長いループを走り切るためにはハードをオプションで選んだ戦略が正解のようにも見えた。
フロントにハード2本、リヤにソフト2本を選んだミケルセンはマシンバランスがしっくりしないため14.4秒をロス、この週末初のベストタイムを奪ったハードとソフトをクロスに装着したロヴァンペラに0.2秒差で首位を譲ることになった。
ここまでは厳しい表情をみせていたロヴァンペラだが、トップに立てたことで少しずつラリーが楽しくなってきたことを認めている。「順調だと思うね。道が分かっているので午後のほうがずっと楽しい。完璧ではないがベストを尽くすよ」
セスクスは、ロヴァンペラにも先行を許したが、ノンハイブリッドマシンにもかかわらずSS5でも3番手タイムを記録して3位につけている。トップとの差は1.3秒だが、彼の1.1秒後方にはエヴァンスが迫っており、トップ4がわずか2.4秒差にひしめくデッドヒートとなっている。
朝のループで観客の安全性の問題から4台が走ったところでキャンセルとなったヴィエルチュキの2回目の走行となるSS6は、ふたたび4台が走ったあとミケルセンが走行中に赤旗が出されてスロー走行を強いられてしまった。10分あまりの中断のあとセスクスから再開している。
ここで好タイムを奪ったのは、朝のループで1回目のステージを走ることができたドライバーたちだ。ヌーヴィルが朝に続いてベストタイム、5速全開で190km/hをキープして流れるようなセクションを持つこのステージで平均速度は133km/hに達した。同じように朝もここを走っているエヴァンスが2番手タイム、初めてこのステージを走ったロヴァンペラを0.1秒差で抜いて2位へと浮上することになった。
ロヴァンペラは1回目の走行ができなかったためペースノートが不完全だったと認めている。「午前中のテストがキャンセルされたことは大きい。僕らのペースノートではクリーンな走りをするしかなかった。これ以上は無理だった」
ノーショナルタイムが与えられたミケルセンがエヴァンスに2秒差をつけてふたたびラリーリーダーとなっている。スタートを待たされたセスクスはタイヤ温度を冷やしてしまい5.5秒遅れの6番手タイムにとどまったが、6.2秒遅れで4位をキープしている。
SS7オレツコは3台が走行しただけでまたも観客の安全上の懸念によりキャンセルされることになった。金曜日の6つのステージのうち3つが同じ理由で中断またはキャンセルされなければならなかった。
ステージを走ることができなかったドライバーたちにはヌーヴィルの3番手のタイムがノーショナルタイムとして与えられた。ミケルセンがトップをキープしたが、エヴァンスが1.6秒差の2位、2.1秒差の3位にロヴァンペラが続き、大接戦が続いている。
金曜日の最終ステージであるミコワイ・アリーナの2回目の走行は、雨が落ち始めており、路面を少し湿らせているが、雷雨までには至らなかった。ミケルセンが接戦を制して首位をキープして金曜日を終えている。「今日は道路のクリーナーという仕事がなかったのでいいポジションで終えることができたことは明らかだ。明日は同じ条件での戦いになる。どうなるだろう。しかし、僕らは堅実にフィニッシュしなければならないことを忘れてはならない」
勝田とロヴァンペラがベストタイム、ロヴァンペラはエヴァンスを0.2秒抜いて、ミケルセンから1.8秒遅れの2位となった。明日のロードポジションは一つ前のロングステージの順位で決まるため、ロヴァンペラは少し遅かったと笑みをみせた。「本当は前のステージで(エヴァンスに)数秒の差をつける必要があったが、ここでは明日の出走順には影響がない。本当に疲れる長い一日だったが、この状況の中でいい仕事ができた。今日はロードポジションに救われたが、明日はそうではないのでがんばるよ」
フールモーがセスクスを0.2秒差で抜いて4位へとポジションアップすることになった。それでも5位のセスクスと首位とのギャップは僅か7.7秒にすぎないため、上位陣は非常に混戦だ。「素晴らしい一日だったし、今も楽しんでいる。もちろん明日もまた練習の一日だ!」とセスクスは笑顔でRally1デビュー初日をふりかえっている。
6位にはミュンスター、7位にはヌーヴィルが続き、勝田がヌーヴィルの後方2.5秒差の8位でこの日を終えている。勝田は、SS6では2番手タイムを刻んでペースを掴み始め、さらにSS8ではトップタイムを奪って一日を締めくくっただけに、SS7がキャンセルされたことでポジションアップの可能性を失ったことは残念だろう。彼は土曜日をRally1カーのトップとしてコースオープナーとしてスタートしなければならないからだ。それでも彼は前向きに明日を向いている。「ステージはすごくスリッパリーで、コーナーを高速で曲がり、全開でマシンが真横になった。少し驚いたが、大丈夫だった。今日は苦しんだが、考えもセットアップも変えた。このまま全開で走り続けよう」
土曜日は7SS/124.10kmというラリー最長の一日となる。オープニングステージのシフィエンタイノは現地時間8時30分、日本時間15時30分のスタート予定だ。ミコワイキには今夜小雨が降りそうだ。