WRC2023/03/18

ラッピ、オジエの猛攻を抑えてメキシコをリード

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 2023年世界ラリー選手権第3戦ラリー・メキシコは金曜日を終えて、ヒョンデ・モータースポーツのエサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1)がセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)に5.3秒差をつけてラリーをリードしている。

 ラリー・メキシコは木曜日の夜、かつて銀鉱の町として栄えた古都グアナファトの地下トンネルで行われたストリートステージGTOで開幕したあと、いよいよ金曜日から今季初のグラベルステージへと戦いの舞台を移す。

 金曜日はエル・チョコラテ(29.07km)からスタート、最高地点である2,740mに到達するオルテガ(15.71km)、ラス・ミナース(13.79km)という3つの高地ステージを走ったあと、レオンでのミッドデイサービスが行われる。午後も同じ3ステージをループしたあと、ラス・ドゥナス・スーパースペシャル(3.53km)とレオン市街地で行われるディストリート・レオンMX ロック&ラリーSSS(1.30km)の2つの短いステージを走る、8SS/121.97kmの1日となる。

 メキシコは今季初のグラベルラウンドとなるだけにシーズンの行方を占う意味でも重要となる。Mスポーツ・フォードに移籍し、前戦のラリー・スウェーデンで優勝を飾って選手権リードするオイット・タナク(フォード・プーマRally1)にとっては、一番手でロードスイーパーとして走る金曜日は大きくタイムを落とす可能性が高いが、優勝争いに踏みとどまるためにも「もっとも重要な一日になる」と気合いを入れてスタートした。だが、いきなりトラブルが襲い掛かる。

 木曜日の夕方に行われた2つのスーパーSSを制し、オーバーナイトリーダーとして、予想通り後続のドライバーのために路面を清掃することになったタナクは、最初のエル・チョコラテ・ステージの最初の峠の半分を過ぎたあたりで突然パワーを失ってしまったかのようにマシンをストップすることになった。ボンネットを開けてターボパイプの緩みをチェックするためにエンジンルームを覗き込むタナクとコドライバーのマルティン・ヤルヴェオヤの横を後続のカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRallly1)がパスして行く。

 タナクはどうにかリスタートしたものの、ペースは上がらない。2660mの頂上まで駆け上がる後半の急勾配のセクションでさらに後続のティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)に道を譲り、7分30秒を失ってしまい、優勝争いの夢を完全に絶たれてしまった。

「ターボは付いているんだけど、死んじゃったんだ」とタナクはステージエンドで言葉少なく説明した。空気が薄いメキシコではタービンがオーバーシュートしてブローするトラブルは起こりがちだ。彼は2018年にもターボブローに見舞われている。

 さらにMスポーツにとっては悪いニュースが続く。メキシコ初挑戦のピエール-ルイ・ルーベ(フォード・プーマRally1)が右フロントをイン側の岩場で破損してストップ、昨年のギリシャで一時ラリーをリードする速さを見せて今週末も期待されていたものの早くもリタイアとなってしまった。

 また、ジョルダン・セルデリディス(フォード・プーマRally1)もステージを塞いでストップすることになり、Mスポーツの3台ともに戦線離脱してしまった。

 このステージでベストタイムを奪って発進したのは6番手の走行ポジションからスタートしたラッピだ。彼は、5番手という同じく有利な走行ポジションでスタートして2番手タイムを奪ったオジエに1.2秒差をつけて首位に立つことになった。

 ヒョンデに移籍して初のグラベルラリーでいきなりトップに立ったラッピは、良いスタートになったとステージエンドで笑顔をみせる。「ステージ上では、自分がどんなスピードを出しているのか、まったくわからない。オジエに匹敵するタイムなら、正しい道を歩んでいるということだろう」

 終盤でハイブリッドブーストを失いながらも7.3秒差の3位にダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)、4位にはエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)、5位にはヌーヴィルが続いている。

 タナクがストップした中盤以降、実質コースオープナーを務めたロヴァンペラにとっては試練のスタートとなった。12.7秒を失って、昨夜の2位から6位へと後退してしまった。「何もラインがないよりは、少なくとも1本あったほうがいいのは確かだ。これからもかなり厳しい戦いになる。このあとはもっと悪くなるだろう」

 SS4は最高地点の標高2740mに達するオルテガ・ステージ。ここで素晴らしい速さをみせたのはオジエだ。彼は2つのスプリットを終えた時点で、ラッピを抜いてトップに立つ可能性があるように見えたが、ラッピはどうにか0.8秒差で首位を守ることになった。

 ソフトタイヤのグリップに問題が出はじめたのか、終盤でペースを落としたソルドを抜いてエヴァンスが3位へと浮上。 ヌーヴィルはバンプで跳ね上げられたあとフロントから激しく着地、あやうくコースオフの危機もあり、彼はロヴァンペラに抜かれて6位にポジションを落としている。「クレイジーだったよ。バンプに驚き、そのままコースアウトしてしまうかと思った。非常に高速なセクションだったが幸運にも生き残れた」

 荒れた朝となっていたメキシコはSS5ラス・ミナースでも波乱が続く。 この日の朝に30歳の誕生日を迎えた勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)はオープニングSSでは何かが焦げた臭いと煙がコクピットに充満する問題に悩まされたながらもヌーヴィルに続いて7位につけていたが、ラス・ミナースの8.4km地点の左コーナーでリヤを大きくスライド、巻き込まれるような形でコースオフ、急斜面を滑り落ちてマシンを止めることになった。

 ラス・ミナースでトップタイムを奪ったのは首位のラッピだ。6度のメキシコ・ウイナーであるオジエのプレッシャーにさらされているかにも見えたが、ラッピは2つめのベストタイムを奪って、そのアドバンテージを1.4秒に伸ばす。ステージエンドでタイムを知ったラッピはにこりと笑みを浮かべることになった。「この結果には満足しなければならない。セブはこのラリーで何度も優勝しているので、彼のペースに匹敵できることはとても嬉しいことだ。ドライビングは決して完璧ではないし、コンマ数秒を失ったところも数か所あった。改善の余地があるので、午後はそれをやってみよう」

 オジエはなかなかトップに立てないようにも見えるが、彼は、クリーンな走りを続けることに専念していると語った。「5番手出走だったから、1番手よりずっといいが、時々岩があるので、それだけは気をつけなければならない。クリーンに走ることに集中しているよ」

 3位はスリッパリーなコンディションのなかで堅実な走りを続けるエヴァンスがキープしているが、ソルドが0.6秒差に迫った。ソルドは「ペースには満足している」と語りながらも、シェイクダウンでも速さを証明したようにRally1カーの最後方でスタートした朝のループではもっと速さをみせてもよかったはずだ。「コーナーでマシンがあまり安定しないんだ。だから、もっとラインを維持できるようにセットアップを変更するつもりだ」

 ソルドもオープニングSSでハイブリッド・ブーストの問題に見舞われたが、前のステージのバンプでの大きな衝撃によってヌーヴィルとともにロヴァンペラもハイブリッド・システムに問題が発生、このラス・ミナースではブーストを失ったと訴えている。それでも、ヌーヴィルはより大きなタイムを失ったロヴァンペラを抜いて5位で朝のループを終えている。

 ターボを壊してしまったタナクは、非力なマシンで急勾配のステージに立ち向かってきたが、トップから12分30秒も遅れた26位まで後退してミッドデイサービスを迎えている。「ターボパイプが緩んだだけならいいという期待があったが、残念だがそうではなかった。まずは問題を修理して、プーマでグラベルのラリーを走るのは初めてだし、このまま戦い続けるしかない」

 レオンでのミッドデイサービスでは気温が28度まで上昇、さらに厳しいコンディションのなかで午後のループはスタートした。エル・チョコラテの2回目の走行となるSS6では、ラッピがこの日3つめとなるベストタイムでオジエとの差を再び広げ、2.2秒差にリードを広げることになった。

「とにかくクリーンに行っている。攻めるなんてできない、でないとクラッシュしてしまう。ラインの上にとどまることが鍵となる。クルマは完璧ではないが、かなりいい感じだ」とラッピはリラックスした表情で語っている。

 オジエはラッピにまたも差をつけられたことを聞いても余裕の笑みをみせている。「いいステージが走れたから僕は満足している」

 3位争いは続いており、エヴァンスがソルドに0.5秒差をつけたが、二人は1.1秒差の息詰まるバトルを続けている。だが、続くSS7オルテガでソルドのマシンに異変が発生、コクピットには突然激しくダストが侵入するようになり、視界を奪われてしまっただけでなく、リヤから激しいバイブレーションに悩まされる。ステージをフィニッシュしたソルドのマシンは左リヤタイヤをバーストして、ボディワークにもダメージを負っており、彼はここで1分を失ってしまいヌーヴィルとロヴァンペラに抜かれて6位まで後退してしまった。

 オルテガでは朝のループでも速さをみせたオジエがベストタイム、ラッピのリードはわずか0.3秒となった。だが、二人によるスリリングな戦いは、SS8ラス・ミナースでも続いている。ここではラッピがこの日4つめであり、チャンピオンに対してもっとも大きな差となる3.1秒差をつけるベストタイムをマーク、3.4秒差のリードを築くことになった。

 このラス・ミナースが金曜日の最後のロングステージとなり、この日に残されたのは2つのスーパーSSのみだ。このあとオジエに逆転を許したとしても規定によりラッピは明日、いまの時点での順位のリバースでスタートとなるため、オジエより後方の有利なポジションでの走行が可能となる。「この日は1日を通して同じリズムで、クリーンな走りを心がけてきた。ここではそれがうまくできたと思うし、タイムも問題ない。クルマのフィーリングは最高だから楽しめるよ」とラッピはこれまででもっとも大きな笑顔をみせた。

 オジエも今日の荒れた路面コンディションではすべてを賭けてプッシュしているわけではないと強調する。「プッシュしすぎると思い切り痛い目に会うかもしれない、そんなラリーだ。僕たちは自分たちのペースを保つようにしているが、今のところうまくいっている。(ラッピとは)いい戦いができている」

 高台からラリーカーの走行を観戦できるように設けられたラス・ドゥナス・スーパースペシャルは3.53kmと短く、狭いステージだが、ここでラッピはオジエを3.5秒も上回る素晴らしい走りをみせ、ラリーのリードを約2倍に広げた。これでオジエとは6.9秒差となり、残り1ステージを残すのみとなった。

 サービスパークに隣接する公園エリアなどを使うディストリート・レオンSSSは、コンクリートバリアで仕切られたコースは狭く、石畳のセクションは砂が乗っておりトリッキーなコースとなっており、最後まで油断できない。ラッピはここではややペースを抑えたが、オジエを5.3秒リードして金曜日を終えることになった。

 ラッピはマシンのフィーリングも完璧だったと胸を張っている。「この日は、僕のキャリアのなかでも最高の日だっただろう。トップで戦えることを僕は常に願っていたが、トップでセブと戦うなんてことは、まったく考えてもいなかった。この日がどうなるかはあまり考えていなかったが、自分たちのペースがいいという確信だけはあった」

 オジエは、ラッピを称賛しながらもまだ先は長いと釘を刺している。「エサペッカは素晴らしい仕事をしたね。多くのリスクを冒す以外、これ以上できることはなかった。そして、このラリーでは、そのようなアプローチは決してしたくない。でも、まだまだ先は長いよ」

 ルースグラベルでなかなか満足したグリップが得られなかったエヴァンスは、オジエからは24.8秒遅れとなっているがポディウムポジションを堅持しているが、4位のヌーヴィルが9.7秒差まで迫っている。

 ヌーヴィルは、ラス・ミナース・ステージでダンパーに問題を抱えてステージ終盤でリアエンドを大きくスライドさせる場面があったものの、ロードセクションでどうにか問題を解決、SS8、9と連続して2番手タイムを奪ってポディウム圏内まで近づいてきた。

 5位にはロヴァンペラが続いているが、彼は安全のためにスペアを2本搭載して午後のループに挑んだため、ヌーヴィルからは19.9秒遅れとなっている。それでも明日は走行順も今日よりもマシになるため、彼の表情は明るい。「できることはすべてやったと思う。明日は出走順が良くなるので、それをうまく使って順位を競いたい」

 タナクは、総合18位と大きく遅れたことはたしかだが、ルーベ、勝田、セルデリディスがリタイアしているため、少なくとも明日は一番手で走ることからは逃れることができる。それでもポイント圏内に戻れるチャンスはあるだろうか。「ステージはハードでラフだから、まだチャンスはあるので戦い続けるよ」

 明日の土曜日も9SS/126.52kmという長くタフな一日となる。オープニングSSのイバリッヤは現地時間8時13分(日本時間23時13分)にスタートする。