WRC2022/04/25

ロヴァンペラ、クロアチアで劇的な逆転優勝

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 2022年世界ラリー選手権(WRC)第3戦クロアチア・ラリーは最終日、まさかの雨のなかでタイヤギャンブルを成功させたオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が終盤でトップに立つという波乱が起きたが、トヨタGAZOOレーシングWRTのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が最終ステージで逆転、前戦のラリー・スウェーデンに続いて今季2勝目を飾ることになった。

 クロアチアの最終日はザグレブ北部の新しいトラコスチャン〜ヴルブノ(13.15km)と昨年も最終日に行われたザゴルスカ・セラ〜クムロヴェツ(14.09km)の2つのステージを2回ループする4SS/54.48kmという短い一日となる。ノーサービスで走りきることになるため、この日の朝のサービスではドライバーとチームは最後のタイヤチョイスに頭を悩ませることになる。

 パワーステージとして行われる2つめのザゴルスカ・セラ〜クムロヴェツ・ステージではこの日の朝、小雨が降ったが、セーフティクルーたちはコースが全域にわたってほぼドライであるとの情報をサービスパークにもたらしており、天気予報も日曜日は曇り時々晴れの一日だと伝えている。しかし、いまの季節のクロアチアが不安定な天候であることはこの週末の空模様からもはっきりしている。

 ほとんどのドライバーが迷うことなくこの週末初登場となるハードコンパウンドのドライタイヤ5本を選び、4位につけるティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)はソフトとハードを3本ずつチョイスした。ラリーリーダーのロヴァンペラもハード4本に加えてウェットタイヤ2本をスペアとして搭載するが、これに対して19.9秒差の2位で最終日を迎えたタナクはなんとソフト4本とウェット2本という驚くべきギャンブルに出た。

 オープニングステージのSS17トラコスチャン〜ヴルブノは完全なドライコンディションだ。一番手でコースを走ったエサペッカ・ラッピ(トヨタGRヤリスRally1)がもっともクリーンな路面でベストタイム、路面がかなり汚れた9番手という走行順にもかかわらず、ロヴァンペラがわずか0.8秒遅れという信じられない2番手タイムで続く。前夜の最終ステージでタナクからのプレッシャーから連続ベストで逃げ切ったあと、彼は「フルスピード行く! それが僕の信条なんだ!」と勝利への強い決意を示したが、この強烈なタイムでその気持ちにいささかの揺るぎもないことをふたたびアピールすることになった。「良いスタートだった。フィーリングも良くなり、ペースもあるし、すべてがうまくいっている。この調子で次のステージも続けよう」

 一方、ソフト4本を装着したタナクは、必死にラインにとどまろうとするもコーナーごとにマシンをスライドさせて苦戦、なんと12.2秒も失ってしまい、首位のロヴァンペラとの差は31.1秒に広がってしまった。

 ヒョンデは昨年のクロアチアでも土曜日にタイヤ戦略のミスを犯し、ヌーヴィルから優勝のチャンスを奪っている。タナクのクールな表情からは彼の気持ちは読めないが、ワークス勢のなかではもっとも遅いタイムからギャンブルが奏功しなかったのは明らかだ。「タイヤが上手くいかなかった。かなり乾いている。僕たちは雨をかなり心配していたんだけど、今はかなり晴れている。だが、賭けにでるしかなかった」とタナクは語っている。

 3位争いも熱を帯びており、3番手タイムを刻んだヌーヴィルが、ブリーンに4.5秒差に迫っている。

 続くSS18ザゴルスカ・セラ〜クムロヴェツの路面は、あっという間に乾いたのだろうか、情報とは異なりほとんど雨で湿った形跡はない。だが、とくにステージ前半のつるつるに磨かれたホワイトターマックのセクションには路面にかなりのダートがでており、激しく滑りやすいコンディションとなっている。最初にコースに躍り出したラッピは左コーナーを曲がりきれずにオーバーシュート、そのため温まりやすくグリップを発揮したソフトタイヤが威力を発揮することになった。

 ソフトとハードをクロスオーバーに装着したヌーヴィルがベストタイムでついにブリーンを抜いて3位に浮上することになった。「いいステージだった。このまま続けてどうなるか見てみよう。ポディウムが欲しいし、なんとしてでも獲りにいく」とヌーヴィルは表彰台へ強い執念をみせる。

 オールソフトのタナクも2番手タイム、首位ロヴァンペラとの差を2.7秒縮めたが、ロヴァンペラは依然として28.4秒という大きなマージンで総合首位を維持している。「オイットに対してタイムをあまり失わずに済んだのは良かったが、かなりいいペースでクリーンな走りができていた。いい感じだ」と、ロヴァンペラは勝利に向かって順調に行っていることを確信している様子だった。

 ところが、トラコスチャン〜ヴルブノの2回目の走行ではまさかの事態が待っていた。突然、大粒の雨が降り出し、瞬く間にステージ全域にわたって水浸しにしてしまう。ここでベストタイムを奪ったのは、ソフトとウェットを2本ずつクロスオーバーに装着したタナクだ。ハードとウェットを2本ずつ装着したロヴァンペラのタイムを29.8秒も上回ることに成功、土壇場で1.4秒差をつけてトップに立つことになった。

 ロヴァンペラはステージエンドで「この天気がいったいどこから来たのか分からないよ」と、うらめしそうに語った。「雨が降るとは思いもよらなかったし、このタイヤでは彼に敵わないよ。ハードタイヤはまったく機能していないしこれ以上僕たちできることはなかった」

 だが、ロヴァンペラがコメントしている時、すでにステージ上空には抜けるような青空が広がっており、後続のマシンのために急速に路面を乾かし始めていた。タナクのベストタイムこそ破られなかったが、2番手タイムをエミル・リンドホルム(シュコダ・ファビアRally2エボ)、3番手タイムをクリス・イングラム(シュコダ・ファビアRally2エボ)が奪うなど、トップ10のうち7台をRally2マシンが占めることになった。

 パワーステージのスタートまでは2時間もあとだ。魔法のような時間は終了し、ザゴルスカ・セラ〜クムロヴェツのステージはほぼドライコンディションとなって最終決戦を待ち受けることになった。

 ここまでの順位のリバースでスタートするパワーステージでは、3位争いにも最後のビッグドラマが待っていた。すでに大雨となった前ステージでハード4本を装着するブリーンはリスクを避けてポジションキープのためにスローダウンしており、ヌーヴィルからは1分54秒遅れの43番手タイムで、彼の4位は確定かとも思われた。パワーステージのスタート直前になってスチュワードは、ヌーヴィルが土曜日の夜、フル電動モードの走行を義務づけられたサービスパーク内でこれを破ったとして10秒のペナルティを科すことを発表したが、二人は1分32秒という大きな差でパワーステージを迎えていた。

 ハードとソフトをクロスに装着して最終ステージに挑んだヌーヴィルは、インターコムを失っていたことも影響したのだろうか、右フロントのハードタイヤがグリップを失って左コーナーでオフ、バンクに激突してしまう。ヌーヴィルは、ディッチに落ちたマシンをどうにかコースに戻してウィダーゲの身ぶり手ぶりでの指示によって1分遅れながらもどうにかフィニッシュ。タイヤ2本がパンクしており、危ないところだったが、ブリーンには46秒差をつけて3位をキープすることになった。

「最後にハードタイヤのブレーキングでミスしたが、幸いにもそのまま逃げ切ることができた。週末の間、小さな複数のトラブルで非常に不運だったが、最終的には運が味方した。すべて順調だ」とヌーヴィルは喜びを語った。

 ハード2本とウェット2本をクロスに装着するロヴァンペラに対し、ソフト2本とウェット2本というタナクとのタイヤ勝負となった最終ステージは、路面にかなりのグラベルが出ていることからタナクに有利と見られていた。

 先にステージに向かったロヴァンペラがそこまでの暫定トップタイムだったエヴァンスのタイムを21.3秒も上回る驚異的なベストタイム奪い、最終ランナーのタナクを待ち受ける。タナクは最初のスプリットでロヴァンペラから1秒遅れ、2つめのスプリットで4.3秒とじわじわと遅れ、最終的に5.7秒差の2番手タイムに終わることになり、ロヴァンペラが4.3秒差をつけて逆転で今季2勝目を飾った。

「ハードタイヤでこれほど速く走れるとは思っていなかったが、素晴らしい結果になったよ」とロヴァンペラは語った。「オイットはもっといいタイヤを履いているので僕は全力を尽くした。ヒヤっとする瞬間もあった。タイヤで選択で負けが決まってしまうのは本当につらいと思ったので全開で攻めたんだ。今週末はこの結果に値すると思う。間違いなく、僕のキャリアのなかで最もタフな勝利だった」

 タナクはトップを守るために無謀なチャレンジをしなかったと語り、ロヴァンペラの勝利を祝福した。「ここではリスクを冒さなかった。カッレは明らかに良いドライブをした。優勝争いはしていたが、クレバーな判断とタイヤの選択があったからこそだ」

 選手権のためには勝利を狙いたいと語ってクロアチアをスタートしたエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)は、金曜日のパンクで15位まで後退したあと2つのベストタイムを奪って5位まで挽回した。選手権を考えればけっして望んでいた結果ではないが、彼は次戦以降の巻き返しを狙いたいと語った。「いい結果を目指したが、今週末も残念な結果になった。でも、次のラリーを楽しみにしているよ」

 勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)はウェットコンディションでの課題を残したが、概ねドライとなった最終日のSS17ではトップから4秒差の4番手タイムを奪い、総合6位でフィニッシュを迎えている。「トリッキーなコンディションで全く自信がなかったが、チームが非常にサポートしてくれたので、このラリーを乗り切ることができたよ」

 また、土曜日の朝にクラッシュしたオリヴァー・ソルベルグ(ヒョンデi20 N Rally1)は、エキゾーストの熱でマシン火災に見舞われたあと幸いにもマーシャルによって火は消し止められたものの、ハイブリッド・ユニットのレッドライトが点灯。そのためマシンはFIA によって隔離され、検査によって厳しい安全基準をクリアする必要があったが、残念ながら日曜日のリスタートが認められなかったためにリタイアとなっている。

 第3戦クロアチアを終えて、ドライバーズ選手権ではパワーステージを制して完全勝利を飾ったロヴァンペラが76ポイントを獲得して選手権リーダーをキープ、2位のヌーヴィルとの差を14ポイントから29ポイントへと広げている。3位には30ポイントのブリーン、2位に終わったタナクもセバスチャン・ローブと並ぶ27ポイントで選手権4位へと挽回している。

 また、マニュファクチャラー選手権では、トヨタGAZOOレーシングWRTが126ポイントでリード、今季初のダブルポディウムを飾ったヒョンデが84ポイントで2位に浮上も、Mスポーツ・フォードが80ポイントで続いている。トヨタGAZOOレーシングWRT NGは30ポイントだ。

 WRC次戦は5月19〜22日のラリー・デ・ポルトガルだ。ここからグラベルラウンドが5戦連続して続くことになる。