WRC2023/10/28

ロヴァンペラ、雨を味方にCERを独走体制

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 2023年世界ラリー選手権(WRC)第12戦セントラル・ヨーロピアン・ラリーは、雨によって信じられないほどトリッキーになった金曜日を終えて、トヨタGAZOOレーシングWRTのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)がリード、選手権を争うエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が2位で続いていたが、最終ステージで二人に割り込むようにティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)が36.4秒差の2位へと飛び込んでいる。

 セントラル・ヨーロピアン・ラリーは金曜日、ふたたび国境を越えてこの日の舞台となるチェコの南ボヘミア地方へと向かう。ヴラホヴォ・ブジェジ(13.66 km)、ズヴォトキ(23.81km)、シュマヴスケー・ホシュティツェ(23.43 km)の3ステージを、美しい南ボヘミアの古都プラハティツェにおかれるタイヤフィッティングゾーンを挟んで2回ループする6SS/121.80kmの一日だ。

 南ボヘミアのエリアは昨夜からにわか雨が降り続いており、オープニングステージのSS3ヴラホヴォ・ブジェジもフルウェットのコンディションだ。

 もっとも路面がクリーンな一番手からスタートしたロヴァンペラがベストタイムで発進、オイット・タナク(フォード・プーマRally1)を抜いて2位へと浮上、トップで金曜日をスタートしたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)に1.4秒差まで迫ることになった。ロヴァンペラは「グラベルクルーたちが走ったことで、すでに路面には泥がかき出されてスリッパリーになっていた」と認めたが、ラリーカーの走行でインカットされたコーナーは加速度的に汚れていくため、後続のマシンに比べればコンディションは天と地の差だ。

 ヌーヴィルはフロントガラスが曇るトラブルによって視界に苦しんだが、それより泥だらけの路面のためにペースを落とさなければならなかったと語っている。「道路を見るのに苦労したよ。窓を全開にして空気を取り入れたんだ。でも、それより路面はとても汚れてしまっており、クリーンな走りをしなければならなかった」

 9.6秒も遅れた5番手タイムで3位へ後退したタナクは、なにか問題があったと聞かれ、路面がどんどん汚れてきてのだから当然のことだと言いたげに、引きつった笑みをみせている。「ストーリーは何もない・・・。走りづらい、ちょっとしたチャレンジだった」

 ロヴァンペラとタイトルを争うエヴァンスは、木曜日の2つのステージで苦戦し、すでに13秒以上遅れた8位となっていたが、ここでは3番手タイム、4位へとポジションを上げてきた。

 厳しいコンディションとなったオープニングステージでは優勝候補の一角に波乱が発生している。初日を3位で終えたセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が右フロントタイヤをパンクして41.9秒遅れ、10位まで後退してしまう。表彰台争いから転落したオジエはステージエンドでピレリのレインタイヤを非難した。「信じられない、何と言ったらいいのか・・・ミシュランの登場を待つしかないね」

 ピレリのレインタイヤはクロアチア・ラリーでも多くのパンクが発生、オジエもわずか2つめのステージでタイヤ交換を強いられて優勝争いから脱落していただけに憤慨するのももっともだ。しかし、オジエのフロントリムは大きく破損しており、けっしてタイヤだけの問題があるわけではなさそうだ。もちろん彼だけが問題に見舞われたわけではなく、トヨタの全車がリムにダメージを負っているほか、ヌーヴィルも1本リムを曲げている。いずれにしてもスペア1本しかもたないオジエはスペアを使い果たしたため、無理をして挽回することさえできなくなった。

 SS4ズヴォトキでは前のステージより雨が強く降っており、ステージ前半と終盤はかなり水たまりも生まれておりいちだんとトリッキーになっている。首位のヌーヴィルは高速セクションで何度かマシンを激しくスライドさせてしまい、一気に20秒近くを失ってしまうなか、ロヴァンペラが圧巻のベストタイム、ヌーヴィルを逆転、18.1秒差をつけてラリーをリードすることになった。「なかなかペースを掴めなかった。最初のステージよりもウェットだという情報をもらったけど、ところどころ慎重になりすぎたと思う」とロヴァンペラは笑顔をみせた。

 3位につけていたタナクも5位へとドロップ、レインタイヤを装着していても雨と泥のステージではグリップも信頼できなかったと訴える。しかし、そうした難しいコンディションにもかかわらず、朝から連続して2番手タイムで驚異的な追い上げをみせてきたのはラッピだ。彼は木曜日のオープニングステージでのジャンプスタートで10位と出遅れたがすでに3位まで挽回、ステージエンドで笑みをみせることになった。「大丈夫だ。確かにひどく滑りやすく、安全には気をつけなければならない。カットから泥がたくさん出て来ているので、思うようにコミットできない。でもアンチカットがあればコミットできる」

 だが、ロヴァンペラに次いでもっともウエット・ステージで自信に満ちた走りをみせていたかに思われたラッピは、続くSS5シュマヴスケー・ホシュティツェをスタートしてわずか1.2km地点の泥がでていたコーナーでスライド、リヤを激しく立ち木にヒットしたあとコースオフ、リタイアとなってしまった。

 ロヴァンペラはダウンヒルのあとの右コーナーでオーバーシュートを喫したが、3連続ベストタイムを叩き出し、リードを29.2秒に拡大して朝のループを終えることになった。彼はあまりプッシュしたわけではないが、有利な走行順に助けられたと語っている。「そんなに大きくプッシュしていないと思うけど、1番手で走るのには確実にコンディションもいいし、ドライビングも良かったと思う」

 エヴァンスはステージが少し狭いと感じていたが、木々の間やタイトなコーナーでも慎重になりすぎたと悔しがったが、ロヴァンペラのペースから6.4秒遅れの2番手タイムを奪い、0.9秒差ながらヌーヴィルをかわして2位で朝のループを終えることになった。

 2位を失ったヌーヴィルは自身の走りはそれほど悪くなかったと認めたが、シェイクダウンのままのスプリングでは明らかに固すぎたとセットアップのミスを後悔している。「路面はだいぶ汚れてきて、僕たちにできることはあまりない。シェイクダウンの時からのスプリングは明らかに固すぎるが、そのセットアップで丸一日乗り切らなければならない」

 ヌーヴィルの13.7秒後方の4位にはタナク、さらに33.7秒差で勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が続いている。6番手スタートの彼は上位陣に乱されたコースを走らなければならない条件の悪さもあるが、なんとかペースを見つけようとしている。「グラベルクルーがいい仕事をしてくれたのは確かだけど、コンディションが大きく変化しているセクションもある。予想外のグリップに驚かされるため、ノートを完全に信用できない難しさがある。なんとかバランスを見つける必要があるよ」

 金曜日にはミッドデイサービスは設けられていないため、南ボヘミアの古都プラハティツェにおかれるタイヤフィッティングゾーンでのタイヤ交換と車載のパーツのみでの応急修理でラリーカーは午後のステージへと向かって行く。ほぼ全員が朝と同様にふたたびフルウェットタイヤをチョイスするが、タナクだけがウェット4本にソフトタイヤ2本を組み合わせてトップグループへの復帰を期待する。

 ヴラホヴォ・ブジェジの2回目の走行となるSS6では雨上がりの空は明るくなり、路面もかわき始めているが、まるでグラベルラリーのように大量の泥がコースを汚しているコーナーもある。

 ここでは慎重な走りに徹したロヴァンペラが朝の1回目の走行のときよりも8秒遅れのタイムにとどまるなか、エヴァンスがこの日初めて選手権を争うライバルを上回るベストタイム、その差は27.5秒とやや縮まった。「正直に言うと、ここで良いフィーリングを持てる人がいるかどうか分からない。かなり恐ろしいコンディションだが、自分たちに出来る限りのことをした」

 タイトルを争うエヴァンスがやっとペースをつかんだかにも見えたが、チャンピオンは続くSS7ズヴォトキではライバルの反撃を封じ込めるかのような強烈な鉄槌を打ち付ける。ロヴァンペラはエヴァンスに対して1kmあたり0.4秒も引き離すベストタイム、リードを37.2秒へと広げてみせた。

 ロヴァンペラは「泥が多かったのでこのループの最初のステージはかなり慎重に走ったが、ここではもう少し路面がクリアになったので、少し速く走ろうと努めた」と淡々と語ったが、後続のエヴァンスは自身が9.7秒も遅れたことに少しショックを受けたようだった。「僕のフィーリングは最悪だったので、彼も同じであることを期待したが、明らかにそうではなかった。正直に言うと、タイヤはかなりムービングしていた」

 ヌーヴィルが2番手タイム、エヴァンスに0.3秒差に迫ってきた。「レインタイヤは少しムービングしていた。全体的にグリップがないので、なんとかマシンを道路上に留めようと頑張っている。セクションは少し乾いてきたけれど、速く走ろうとするとすぐに汚い路面に当たる。簡単なステージではない」

 この日は最後まで路面コンディションの変化がドライバーたちを驚かせる。SS8シュマヴスケー・ホシュティツェは雲間には青空が見えるにもかかわらず、雨がステージを濡らし、アスファルトの路面は光り始めている。

 一番手スタートのロヴァンペラは朝のループより34.1秒も遅れるタイムで慎重な走りをみせるも、エヴァンスはさらに10秒も遅れるタイムにとどまり、ロヴァンペラとの差は47.2秒に拡大してしまった。さらにベストタイムを奪ったヌーヴィルに10.8秒差で逆転され、エヴァンスは3位へと後退している。

 エヴァンスは選手権リーダーとの差が大きく広がってしまったことを知って不機嫌そうに首を横にふった。「わかっていた。スリッパリーな場所でヒヤっとする瞬間があり、実力を十分に発揮できなかったんだ。良い走りではなかったよ」

 トップのロヴァンペラは大きなリードを築いてラリーをリードできたことを幸運だったとふりかえった。「超トリッキーな一日だったが、幸運にも天気は僕たちの出走順の味方をしてくれた。今日の出来には満足できる」

 ロヴァンペラより1.1秒速く、ここで総合2位に浮上したヌーヴィルは、自身がベストタイムを奪えるとは思ってなかったようだ。「雨がどんどん強くなってきたので、僕たちはタイムを失っていると思った。もしかしたら、場所によっては雨が道路をきれいにしてくれたのかもしれないね、どうだろう。グリップは常に限界だったからね」

 午後のループに向けて全ドライバーがフルレインタイヤでスタートするなか、タナクは路面がドライになることを期待してソフト2本を加えたが、このギャンブルはうまくはいかなかった。ポディウム圏内から13秒差で午後のループをスタートしたタナクはじわじわとペースを落とし、さらにこのステージではギヤレバーが壊れるトラブルもあり、3位のエヴァンスからは43.2秒も遅れてしまった。

 勝田は午後のループではハイブリッド・ブーストを失う問題もあったが、厳しいコンディションのなかで5位をキープしている。「コンディションの変化が激しかったね。このステージもステージ前は雨が降っていなかったが、走り始めると降ってきた。とても難しかったよ」

 朝のパンクで10位に後退したオジエは、勝田の9.1秒後方の6位へと挽回、ヒョンデi20 N Rally1での初ターマック・ラウンドに臨んだテーム・スニネンはオジエと同じく朝のステージでパンクに見舞われ、マディなコンディションでなかなかペースを上げられず7位で続いている。

 また、同じくフォード・プーマRally1でのターマックデビュー戦に挑んでいるグレゴワール・ミュンスターは安定した走りながら、ときにチームメイトであるピエール-ルイ・ルーベ(フォード・プーマRally1)を上回るペースを刻んで8位で続いている。

 ルーベはSS4でヘルメットのストラップを正しく締めなかったことから安全規定への違反によって1分間のタイムペナルティと1500ユーロの罰金を科せられ、さらにこの日の最終ステージではブレーキのミスからクラッシュ、20位まで後退してしまった。

 明日の土曜日はオーストリアとドイツのステージが舞台となるため、金曜日とは異なるキャラクターの路面が待ち受ける。オープニングステージのシュルドリンガー・インフィエテルは現地時間8時15分、日本時間15時15分のスタートが予定されている。