WRC2024/05/11

ロヴァンペラが首位、トヨタが1-2-3

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 2024年世界ラリー選手権(WRC)第5戦のラリー・デ・ポルトガルはレグ1を終えて、カッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)がラリーをリード、1秒差の2位にセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)、さらに朝のループをトップで終えた勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が3位で続き、トヨタGAZOOレーシングWRTが1-2-3を占める展開となっている。

 シーズンはポルトガルでいよいよヨーロッパのグラベルラウンドに突入し、ここから9月末のラリー・チリまで7戦連続でグラベルでの戦いが続くことになるため、タイトル争いの流れをつかむためにも非常に重要な一戦となる。

 ラリーカーは前日の木曜日にサービスパークがあるマトジニョスのエクスパノールから160km近いロードセクションを積載車に搭載されて南下、古都コインブラでのセレモニアルスタートに引き続き、オープニングステージのSS1フィゲイラ・ダ・フォズが行われてラリーは開幕している。

 金曜日の舞台は、昨年に引き続いて壮大な景色が広がるアルガニル丘陵を舞台とした8SS/126.90kmをノーサービスで走る試練の一日となる。モルタグア(18.15km)、ロウザ(12.28km)、ゴイス(14.30km)、アルガニル(18.72km)の4ステージをアルガニルでのタイヤフィッティングゾーンを挟んで午後もループするが、ステージの走行順は見直され、ロウザ、ゴイス、アルガニルのあとモルタグアで締めくくったあと、180km近いロードセクションを経てサービスパークへ戻らなければならない。

 ナイトホルトとなったフィゲイラ・ダ・フォズの朝8時の気温はすでに17度、この日は29度まで気温が上がると天気予報は伝えており、まさしくホットな1日となりそうだ。

 この日のアルガニル丘陵の伝統的なステージはハードな路面で知られるが、前夜のスーパーSSの前にチョイスしたタイヤセットのまま金曜日の朝のループを走り切らなければならないため、誰にとってもタイヤマネージメントが重要なミッションとなる。

 オープニングステージのSS2モルダグアは柔らかい路面をもち、ユーカリの林のなかのハイスピードでテクニカルな路面が特徴となっている。巻き上げられるダストの対策として朝のループは4分間隔のスタートとなったが、林のなかは週前半の雨の影響が残りやや湿ったコンディションだったこともあり、ほとんど視界などへの影響はない。

 選手権リーダーとして一番手のポジションからステージに臨んだティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)にとってもやや湿った路面は救いとなった。彼は大きくタイムをロスすることなく2番手タイムで発進、木曜日のスーパーSSを制してつかんだ首位を守ることになった。だが、ここで勝田がヌーヴィルを1.2秒も引き離す最速タイムを記録、0.8秒差の2位へとポジションを上げることとなった。

 勝田は自身のタイムに意外そうな様子だった。「正直に言うと、フィーリングは悪かったので、タイムがいいと思っていなかった。少し自分のスタイルを変える必要があるし、ステージ上では何度か驚いた。だが驚くことに、順調だ!」

 しかし、SS3ロウザ・ステージでは気温はすでに21度まで上昇、路面は完全にドライとなっており、首位のヌーヴィルはルースグラベルが多いテクニカルなコーナーが連続する上りのセクションで苦戦、8秒をロスして3位へと後退することになった。

 勝田は前半のセクションではタイムを失ったが、後半のダウンヒルセクションでペースを上げてトップへ躍り出すことになった。1.5秒差の2位にオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1 )が続くことになった。「ステージの始めに大きなミスをしてしまって、大きくタイムを失ってしまったので、ステージ終盤に向けてもっとプッシュしようと決めた。もっと自信を持ってプッシュできるように頑張るつもりだ」と勝田は語っている。

 勝田はSS4ゴイシュでも首位をキープ、2位のタナクとの差は1.9秒へと広がったものの、ステージには尖った石が転がり、ベッドロックが多くラフな路面が続き、タイヤにとってはきわめてハードなコンディションのため、いたずらにペースを上げることはできない。タナクの1.5秒後方の3位にはロヴァンペラ、さらに1.8秒差でヌーヴィル、ワークス最後方の9番手スタートを味方にSS3、SS4で連続してベストタイムを奪ったダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)が5番手、6位で続くセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)もトップからわずか6.8秒差という僅差のオーダーで続いている。

 勝田はSS5アルガニルでもトップをキープして朝のループを終えることになった。「ここを走り終えることができたのは良かった。午後は皆にとって本当に厳しいものになるだろうけど、プッシュし続けなければならない。朝のループではミスもしたのでちょっと自信がなくなったところもあったが、心もマシンもリセットして行くよ」

 金曜日の朝のループでできるだけアタックを仕掛けたいと語っていた彼の計画はここまで順調に行っているが、けっして状況を楽観できないほどに後続のドライバーたちは迫っている。路面掃除に耐えながらもここではヌーヴィルがベストタイムを奪ってタナクとロヴァンペラを抜いてふたたび2位へとポジションアップ、勝田の2.9秒後方で試練の朝を終えている。「シェイクダウンの後、フィーリングはそんな良くなかったけど、今は良くなっているし、予想よりはるかにいい朝になったね」とヌーヴィルは笑みをみせている。

 それでもヌーヴィルの0.4秒差にロヴァンペラ、さらに0.8秒差でタナクが続き、トップ4はわずか4.1秒差にひしめいている状態だ。

 ワークス最後方の9番手スタートを味方にSS3、SS4で連続してベストタイムを奪ったダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)は5位までポジションを上げたが、SS5でハイブリッドブーストを失ってしまい、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)にここでポジションを譲ることになってしまった。

 オジエはここでインターコムのトラブルに見舞われ、コドライバーのヴァンサン・ランデがハンドシグナルを使って指示を出しているが、それでも4位のタナクからわずかに3.4秒遅れで朝のループを終えており、さらにソルドもまた1.6秒差で続いている。信じられないほどの大接戦だ。

 さらにはスペア1本という冒険を成功させたアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)はソルドの7.6秒後方で続き、エルフィン・エヴァンス((トヨタGRヤリスRally1)を抑えて朝のループを終えている。

 アルガニルのタイヤフィッティングゾーンの時点で気温は28度まで上昇、一回目の走行で路面がかなり荒れてしまったことが予想されるため、午後のループに向けたタイヤチョイスは各ドライバーともにパンクを警戒してハード主体にスペアを2本搭載するなか、オジエのみがハード5本でスペア1本という軽量マシンで追い上げを図る。

 彼は2022年のポルトガルでも金曜日の午後をスペア1本でスタートして2本をパンクしてリタイアとなっており、いささかかリスクが大きいギャンブルに打って出たかにも見えたが、SS6ロウザでベストタイムで午後のループを快調にスタートしてみせた。ステージエンドで2022年のことを思い出さなかったのかレポーターに問われたオジエは、「リスク無しに楽しむことは出来ない!」と自信の笑みをみせている。「マシンのコントロールを強化するためにセットアップを変更したのでフィーリングも少し良くなった。これでもっと良い走りができるはずだ」

 ロヴァンペラがセカンドベストタイム、勝田に0.1秒差をつけてラリーリーダーとなり、ベストタイムを奪ったオジエは勝田から3秒遅れの3位に浮上し、上位陣のオーダーは大きく変わることになった。それでもタナクはオジエから0.1秒差でぴたりと続き、ヌーヴィルは2位から5位へとポジションを落としたが、彼もまたトップからはわずか3.9秒遅れにすぎない。

 接戦を続ける上位陣とは対照的に、なかなかいいフィーリングが得られないまま8位で出遅れていたエヴァンスが、SS7ゴイシュでトラブルに見舞われる。なんと彼は、ステージを通してコドライバーのスコット・マーティンがスマートフォンの画面を見ながらペースノートを読み上げており、さらに右フロントタイヤをパンクさせてしまい50秒近くをロス、上位へのポジションアップは絶望的となってしまった。

 マーティンはペースノートをSS6のステージエンドのTCでマーシャルテーブルの上に忘れてきたが、幸いにもバックアップとして撮影しておいたペースノートが役立ったようだ。置き忘れたノートは後続のマシンがエヴァンスに届けることは、定められた場所以外での外部からのアシスタンスを禁じているFIAスポーティングレギュレーションへの違反となるため、エヴァンスは午後のループを最後までスマホのノートで走ることになってしまった。

 エヴァンスに不運はあったが、トヨタのチームメイトたちのトップ争いは激しさを増している。勝田は前ステージで0.1秒差でトップをロヴァンペラに譲ったものの、ここでもわずか0.1秒差の好タイムで続き、0.2秒差の2位で食らいついている。そして、さらに後方1.5秒差にはオジエが3番手タイムで迫ってきた。

 僅差ながらリードを広げたとはいえ、ロヴァンペラはマシンのセッティングに問題があると訴えている。「タフなステージだった。マシンが本来走るべきところを全く走れていない。アンダーステアなどがあってずっと苦戦しているので、タイヤはどんどん摩耗している」

 それでもロヴァンペラはSS8アルガニルでこの日は初となるベストタイムを奪ってみせたが、2位の勝田も3番手タイムで続いており、その差はいまだ1秒差だ。さらにハイブリッドを失ったオジエを抜き、タナクが0.5秒差ながら3位のポジションを取り戻している。
 
 タナクは3位とはいえ、首位のロヴァンペラからはわずか3.7秒遅れにすぎない。「明日のロードポジションのために可能な限り上位にいきたいが、まだ全然うまく機能していない」と彼はステージエンドでさらにポジションを上げたいと野心をみせた。

 明日の北部のステージは路面が柔らかく砂質の路面をもつため、金曜日よりはるかに後方のロードポジションが有利となる。もちろん、金曜日の順位の重要性は誰もが理解している。

 この日最後となるSS9モルタグアでは、ロヴァンペラが2番手タイムを奪って首位をキープ、明日の土曜日をワークス最後方のベストポジションでスタートするチャンスを掴むことになった。「今日は一日とても楽しかったが、残念ながらペースは上がっていない。タイヤがかなり消耗していて、それ以上のことはあまりできなかった。勝つことこそ楽しいものだから、また明日もがんばるよ」

 ハイブリッドの問題が解消したオジエがベストタイム、タイヤギャンブルを成功させて勝田を抜いて2位へと浮上、首位のロヴァンペラのわずか1秒後方につけることになった。「こうして一日を締めくくることができるのはいいもんだ、ハイブリッドが機能してくれて良かったよ。どうやって直せたのか、確かではないけど、どうにかリセットできたようだ」

 勝田は3位にポジションを落としたとはいえ、オジエの後方3.7秒差で続いており、明日もさらに上位を目指してプッシュしていきたいと誓っている。「週末の残りはベストを尽くしてプッシュしていきたい。かなり接近していて面白くなっているから、それはいいね!」

 トヨタが1-2-3で金曜日を終えたが、タナクが0.7秒後方の4位で続いており、トップ4はわずか5.4秒と大接戦となっている。

 ソルドはSS7でこの日3つめとなるベストタイムを奪って、チームメイトのヌーヴィルを抜いて5位で金曜日を終えたが、0.2秒差で続くチームメイトの選手権のために明日のロードポジションを譲ることになるものと見られている。

 大健闘のフールモーはヌーヴィルから13.7秒遅れの7位で続き、パンクで遅れたエヴァンスに1分11秒差を築いている。

 土曜日は、マトジニョスの北東に位置するマラオ・エリアのステージが舞台となる。オープニングステージのSS10フェルゲイラスは現地時間8時5分、日本時間16時5分のスタートが予定されている。