WRC2024/07/21

ロヴァンペラ首位堅持、トヨタが1-2

(c)Toyota

(c)M-Sport

(c)Hyundai

 2024年世界ラリー選手権(WRC)第8戦ラリー・ラトビアは土曜日を終えてカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が独走、42.5秒差の2位にはセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が続いており、トヨタGAZOOレーシングWRTが1-2態勢を築いている。

 土曜日は、クルディーガ地方、ディエンヴィドクルゼメ地方という、ヨーロッパ選手権として開催されてきたラリー・リエパーヤの中心的なルートとなってきた高速ステージを舞台とした一日となる。SS9ピルスカーンズ(18.87km)、SS10スネペーレ(17.52km)、 SS11イヴァンデ(23.04km)、SS12ヴェクピルス(12.64km)のあとリエパーヤでのミッドデイサービスが行われる。午後はSS13ポドニエキ(10.09km)、SS14はヴェクピルスの2回目の走行が行われ、SS15ディンズルベ(6.64km)、SS16リエパーヤ・シティステージ(2.56km)を走る。8SS/104.00kmの一日となるが、リピートで走るのはSS14の1ステージのみ、あとの7ステージは1回しか走らないため多くのルースグラベルに覆われた路面の掃除は試練になりそうだ。

 土曜朝のセクション4は72.07kmというラリー最長のループとなる。タイヤ選択は全ドライバーがソフトコンパウンドを4本搭載、ソフトないしハードを1本スペアとして追加するという戦略をとったが、ラリーリーダーとしてRally1カー最後方でスタートするロヴァンペラは重量増を覚悟のうえでハード2本をスペアとして搭載してステージへと向かっていった。

 オープニングステージのSS9ピルスカーンズで速さをみせたのは、15.7秒をリードして土曜日をスタートしたロヴァンペラだ。ロヴァンペラは2位につけるマルティンシュ・セスクス(フォード・プーマRally1)との差を一気に23.8秒へと拡大することになった。「グリップが高くてとてもいいステージだった。タイヤ(の戦略)かうまくいくかどうかは、ループの最後には分かるだろう」

 セスクスは金曜日、誰よりも有利な走行ポジションで2つのベストタイムを奪ってトップ争いを演じてみせたが、ここでは4番手タイムにとどまり、2番手タイムを奪ったオジエに3.2秒差に迫られてしまった。それでも、彼は王者のプレッシャーにうまく耐えているようにも見えたが、ステージエンドではポジションを守ることが一番大事なことではないと楽しそうに笑ってみせる。「悪くはなかった。ちょっとルースになるとまだリズムをつかめず、少し慎重になりすぎたところもあった。僕は学んでいるところだし、オジエやロヴァンペラのようなドライバーたちと戦うには経験が足りていない」

 オジエの14.3秒後方には4番手タイムの勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が表彰台を確かなものにすべくペースを上げて続いている。それでも彼の後方には、アドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)を抜きさったオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が3秒差に迫ってきた。

 SS10スネペーレでもロヴァンペラが連続してベストタイム、キャリア通算200回目のステージウィンだ。彼は笑顔でこの情報を歓迎した。「それがわかっていたら、もっと速く走ったよ!」

 セスクスは29.2秒も引き離されてしまったとはいえ、3位につけるオジエからのプレッシャーに耐え、3.5秒差をつけている。

 4位につける勝田もオジエを上回る4番手タイムを刻んでいい走りを続けているが、2番手タイムのタナクが0.5秒差に近づいてきた。ポーランドではペースを見つけられなかった勝田だが、ラトビアではいいフィーリングを掴んで自信をもってドライビングできているようだ。「もちろん、まだ先は長いので、プッシュし続ける。ミスを避け、最終的にどの位置にいるのかを確認しなければならない。かなりいい感じなのでもっとプッシュはできる」

 それでも続くSS11イヴァンデではタナクがベストタイム、勝田も2番手タイムで応戦したものの、タナクが2.2秒差をつけて4位へとポジションを上げている。

 セスクスはMスポーツ・フォードからマニュファクチャラー登録されているわけではないため、マニュファクチャラー選手権のポイントという点ではオジエは3位でこの日を終えようと、セスクスを抜いて2位になろうとポイントが増えるわけではない。

 だが、オジエは、ここでも素晴らしいペースを刻み、終盤では左側のタイヤをディッチの草むらのなかに落としてひやりとすることになりながらも、0.2秒差でセスクスをパス、首位のロヴァンペラから33.4秒差の2位へと浮上することになった。

 ラリー・ラトビアの前身にあたるラリー・リエパーヤでも有名な高速ステージとして知られてきたSS12のヴェクピルス・ステージ。ここでもロヴァンペラがオジエに1.4秒差をつけるベストタイム、リードを34.8秒に広げて朝のループを終えている。平均速度は1kmあたり129.2km/hというこれまでの週末の最速だ! 

「本当にクールなステージなんだ、2014年くらいにも走ったことがあると思う。フロントにハード2本を履いていて、ステージ序盤ではそれがうまく機能していなくてかなりタイムロスをしてしまったけど、大丈夫だった。(スペア2本というタイヤ戦略については)無駄にウェイトを増やしたけれど、それでもかなり速く走ることができたから、それは結果オーライだ」とロヴァンペラは自信に満ちた笑みをみせている。

 セスクスは前ステージでオジエに2位を譲ったとはいえ、ここでも0.4秒遅れの4番手タイムで食らいついており、2人の差はまだ0.6秒というわからないものとなっている。「すごかったよ、それにステージ中も笑いが絶えなかった。楽しんだよ、ここは伝説的なステージの1つでラストのパートが速い。このクルマで走れたのは最高だよ」

 ここで不運なトラブルに見舞われたのは勝田だ。彼は前ステージでタナクに4位を譲ったとは言え、2.2秒という僅差につけてここでも逆転を狙ってプッシュしたが、パワーステアリング・トラブルで1.5km地点のシケインで曲がり切れずにグラスエリアにオーバーシュートしてしまう。勝田はなんとかコースに戻ったものの、重いステアリングと格闘、顔を歪ませながらゴールを目指すも48秒をロス、フールモー、エルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)にポジションを譲って7位へと後退してしまった。

 フールモーは朝のステージでタナクに抜かれた後も逆転に強い意思をみせてきたが、その差は21.3秒へと大きく拡大してしまい、エヴァンスにも秒差に迫られてしまった。

 選手権リーダーのティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は、チームメイトのエサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1)の戦略的なスローダウンで10位まで後退したことで、土曜日もふたたび一番手のポジションから路面掃除のハンデを負うことを避けることができた。ラッピは次戦のラリー・フィンランドのための実験的なセットアップを試しながらも、ヌーヴィルのためにコースオープナーとしてラインの掃除に徹し、ヌーヴィルはこのサポートによってグレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)を抜いて8位へとポジションップしてきた。

 リエパーヤのサービスを挟み、午後のループの最初のステージであるSS13ポドニエキでもロヴァンペラがベストタイム。2位のオジエとの差は37.4秒差だ。セスクスはここでもオジエから0.2秒遅れ、しぶとく0.8秒差で続いている。

 セスクスの10.4秒後方には、ポディウム圏内で土曜日を終えることを狙うタナクが続いている。

 だが、次のSS14ヴェクピルスでタナクには驚くべきドラマが待っていた。この日、唯一2度走るこのステージは路面がクリーンになっており、まさしく高速サーキットのようなグリップとなってドライバーを待ち構えていた。タナクは、平均速度131km/hオーバーの暫定トップタイムを奪ったヌーヴィルを上回るハイペースを刻んでいたが、高速の右コーナーの出口を抜けたところにコースをふさぐように落下していた巨大なバルーンのアーチに正面からヒット、視界を奪われてコースの真ん中にマシンを止めることになった。

 ここは直前に走ったエヴァンスがワイドになってリヤをディッチに落としてオフした場所であり、彼は幸いにもこのバルーンのアーチを避けてコースに戻っているが、バルーンにエアを送る装置を壊してしまったようだ

 このトラブルでコースには赤旗が出されて中断、後続のフールモーと勝田はスロー走行でコースを走り、幸いマシンに大きなダメージはなかったタナクも、フロントガラスに巻き付いたバルーンを引きはがしたあと左フロントタイヤを交換してゴールしている。

 ステージは中断後にオジエから再開、ロヴァンペラがベストタイム、平均速度は133.8km/hというこの週末の最速記録だ。オジエは2番手タイムで続いたが、首位とのギャップは41.3秒だ。セスクスは3番手タイム、オジエとの差は3.2秒に広がっている。

 あやうくバルーンアーチとのクラッシュでリタイアしそうになったタナクにどのような救済がなされるかも注目されたが、ステージの安全性を阻害する原因となったバルーンによるコースの封鎖はタナクが招いたものではないとの判断のもと、彼にはロヴァンペラから2.7秒遅れの2番手タイムにあたるノーショナルタイムが与えられている。これで彼はセスクスから6.8秒差に迫ることになった。フールモーと勝田にもそれぞれ4番手と5番手のノーショナルタイムが与えられている。

 6.64kmの短いSS15ディンズルベ・ステージでベストタイムを奪ったのはオジエ、ロヴァンペラが2番手タイム、勝田が3番手タイムでトヨタがトップ3を占めることになった。 4位のタナクはセスクスとのタイムを0.5秒しか縮められることができず、セスクスが6.3秒リードしたままこの日の最終ステージへと向かう。
 
 土曜日を締めくくるのは、オールターマックのリエパーヤ・シティステージ(2.56km)だ。バルト海にも近いリエパーヤシーサイドパーク内の道路とストリートを組み合わせたステージには大きなドーナツターンやヘイベイルで囲まれたシケインが作られ、たくさんの観客が声援を送ることになった。

 ロヴァンペラがこの日6つ目のベストタイムを奪い、オジエに42.5秒差をつけて明日に最終日を迎えることになった。「(ビーチでフィニッシュというのは)良い設定だね。ここは最高だったし、ステージに多くのファンが集まってくれたのを見てうれしかったよ」

 トヨタは土曜日を二人のワールドチャンピオンによる1-2態勢でフィニッシュ、あくまで暫定ではあるもののサタデー・ポイントでマニュファクチャラー選手権においてヒョンデを2ポイント差ながら逆転して首位を奪回した計算だ。

 表彰台への野心をみせていたタナクはジャンプしたときにドライブシャフトに問題が発生、ブレーキをミスして巨大なヘイベイルをヒット、15.8秒を失ったが、どうにか4位を守っている。それでも3位のセスクスからは20.8秒遅れとなってしまった。

 セスクスは最終日、母国戦でのキャリア初表彰台に挑むことになるが、彼はただポジションを守るつもりではなく、4.7秒リードしているオジエに挑戦するつもりだと大胆な目標を公言している。「良かったよ。ここではより着実に走った。セブからあまり離れていないので、明日に向けてとても良いね。(明日は)4つのステージ全てで、走って、走って、走ることだ」

 タナクから8.4秒差の5位にはフールモーが続く。フールモーから10秒遅れで午後のループをスタートしたエヴァンスには5位にポジションを上げるチャンスもあったかにも見えたが、SS14のミスによって追い上げはならなかった。「ばかげたミスだった。マシンにあまり負荷をかけ過ぎないようにしようとしたけど、道路を外れてしまった。非常に厳しいコンディションだった」

 勝田は総合4位で土曜日をスタート、表彰台を狙えるペースを刻んでいたが、惜しくもパワーステアリングの問題で7位へと後退して一日を終えることになった。「今日はとても難しい一日だった。とても楽しんだが、非常に小さなひとつのミスにやられた。明日は集中を維持したい」

 ヌーヴィルは8位で土曜日を終えることになり、あとは選手権のためにも明日のスーパーサンデーとパワーステージのボーナスポイントだけを見据えている。「(調整を)たくさん施したので、どんな結果になるか見てみよう。いろいろな調整を試してきたが、マシンは問題なく動いていた。セットアップには概ね満足している。マシンに関しては良い一日だった」

 ミュンスターにとってはヌーヴィルとラッピに順位を奪われる厳しい一日となり、総合10位で明日の日曜日はコースオープナーを務めることになったが、それでも「大変な一日だったが、少なくとも僕たちは(ビーチで)一日を終えることができた!」と、なんとか一日を走りきれたことをよろこんでいた。

 明日の最終日はディエンヴィドクルゼメ地方の4SS/64.08kmという短い一日となるが、より柔らかい路面をもつため轍も刻まれることになり、スーパーファストステージでのシケインのブレーキングにはとくに注意が必要だとピレリは警告している。はたしてトヨタが1-2勝利を飾り、母国のヒーロー、セスクスがトップカテゴリー2戦目で初表彰台を飾ることになるのか。オープニングステージのクロッツェムジは、現地時間8時55分、日本時間14時55分のスタートが予定されている。