WRC2022/04/24

ロヴァンペラ首位維持も雨のドラマでタナクが猛追

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 2022年世界ラリー選手権(WRC)第3戦クロアチア・ラリーは23日にDAY2が行われ、トヨタGAZOOレーシングWRTのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が首位をキープしているものの、オイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が19.9秒差に迫っており、明日の最終日は二人の一騎打ちになる。

 夜半まで降り続いた雨が上がり、曇り空の朝を迎えたクロアチア。土曜日は、ザグレブの南西エリアへと向かい、昨年は金曜日に行われたコスタニェヴァツ〜ペトゥルシュ・ヴルフ(23.76km)とヤシュコヴォ〜マリ・モドゥルシュ・ポトク(10.10km)のあとアドリア海に近いスキーリゾートで行われる新しいプラタック(15.85km)、昨年も土曜日に走ったヴィンスキ・ヴルフ〜ドゥガ・レサ(8.78km)の4ステージをサービスを挟んで2回ループする8SS/116.98kmの一日となる。

 雨による波乱の初日を終えて、ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は2位につけていたが、金曜日の夜、クロアチアのスチュワードはロードセクションで速度違反を犯した彼に1分のペナルティを課したため、タナクとクレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)に順位を譲り、2位から4位へと後退して土曜日をスタートすることになった。そのため、ラリーリーダーのロヴァンペラは1分23.3秒へとさらにマージンを拡大して土曜日を迎えている。

 天気予報は雨の予定はないと伝えているが、路面にはかなりのウェットコンディションが予想されているためドライバーたちはウェットタイヤとソフト・コンパウンドをミックスしてステージへと向かって行った。不運がさらに追い打ちをかけるように、ヌーヴィルはさらなるドラマに見舞われ、フル電動モードで義務づけられたサービスパーク内のゾーンでハイブリッドのスイッチが切り替えできずにメカニックに押してもらって出発、タイムコントロールにここでも1分遅れて10秒のペナルティを課せられた。彼はトップからは2分14秒遅れ、3位のブリーンからも38.8秒遅れでの巻き返しを図ることになった。

 土曜日の朝は、この週末で最も長くチャレンジングなステージ、SS9コスタニェヴァツ〜ペトゥルシュ・ヴルフで波乱とともに幕を開けることになった。雨は降ってないものの、スタートから3.9km地点の連続する湿った高速コーナーで5位につけていたオリヴァー・ソルベルグ(ヒョンデi20 N Rally1)がクラッシュ、クルーにはケガはなかったが、しばらくしてマシン後部から火の手が上がり、ステージは赤旗で中断したあとキャンセルとなった。

 ステージキャンセルとなる前にこのステージを走り切ったのは、ベストタイムを奪ったエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)をはじめわずか6人。ほかのドライバーにはノーショナルタイムが与えられることになる。

 もっとも雨の影響が残っているはずだった前ステージがキャンセルとなったことで、ウェットを多めにチョイスしているドライバーにとっては誤算のループになるかもしれないという懸念はあったが、続くSS10ヤシュコヴォ〜マリ・モドゥルシュ・ポトクでのタイヤ戦略は興味深いものとなった。一番手でコースを走るエサペッカ・ラッピ(トヨタGRヤリスRally1)が4本ともソフトタイヤを履くなか、2位につける9番手スタートのタナクと10番手という最後方からスタートするロヴァンペラは路面にかきだされる泥に備えてウェット4本をチョイス、3位につけるブリーンはソフト4本、ヌーヴィルはウェットとソフトを2本ずつクロスに装着するという選択だ。

 ここではラッピが初めてステージ勝利を飾り、依然としてロードオーダーが早いドライバーにかなり有利であることを証明したが、その一方で後方の走行ポジションからのフルウェットというアプローチも正解のようにも見えた。だが、ロヴァンペラはベストタイムから13秒遅れの8番手タイムに留まる。

「ダーティなステージだったので、フルウェットを履いて慎重に走ったんだ。もう少し速く走る必要があったが、そうすれば大丈夫だ」とロヴァンペラは語った。同じチョイスをしたタナクは4番手タイムで首位のロヴァンペラとの差を10秒近く縮めてみせたが、ロヴァンペラのマージンは1分12.7秒といささかも揺るぎはないように見えた。

 しかし、続くSS11プラタック・ステージには大きなドラマが待っていた。曇りの一日になるはずが、標高1200mのスキーリゾートへと駆け上がるステージは土砂降りの雨と濃霧に見舞われてしまう。ここでは当然のことながら4本のウェットタイヤを持ち、フルウェットの仕様でスタートしたドライバーにとって有利なコンディションとなった。

 当初はウェットを多く選んでスタートしたことに疑問をもっていたタナクだが、ここではフルウェットが素晴らしい効果を発揮、ウェットとドライを組み合わせて走ったチームメイトのヌーヴィルを1kmあたり1.1秒以上も速く、18.6秒も上回る快心のベストタイムを叩き出した。「このようなコンディションでは、タイムは気にせず、ただ走りきることに満足すればいい。おまけに(濃霧のため)ボンネットまでしか見えないから、大変だったよ」とタナクは笑顔をみせた。3位につけるブリーンもソフトとウェットのクロスオーバーのためにタナクから19秒遅れ、二人の差は13.1秒から32.3秒へと大きく開くことになった。

 だが、彼らの後方ではさらなる異変が起こっていた。タナクと同じくフルウェットを装着しているはずのロヴァンペラのタイムが伸びない。コーナーごとにマシンは大きく降られてヘビーウェットのステージをもがくように駆け上がる。左フロントタイヤが完全にリム落ちしており、終盤のコンクリートのシケインが待ち構えるセクションではさらにペースダウン、なんと彼は54.5秒も失って、タナクに18.2秒差まで迫られることになった。

「よく分からないんだ。最初の方の小さな道で起きたんだ。でも、僕たちは何も感じなかったよ」とロヴァンペラは頭を横にふるしぐさをみせる。

 続くSS12ヴィンスキ・ヴルフ〜ドゥガ・レサは嘘のようにドライのコンディションだ。タナクはここでは3番手タイムも、ロヴァンペラを1.4秒上回り、首位まで16.8秒差まで詰め寄って朝のループを終えることになった。

「このラリーはあまりにもトリッキーでまだパンクが1回だけなのは良かったと思う」とタナクは語った。

「最終的にはラッキーなタイヤチョイスだった。プラタックのステージで水が多いという情報もなかったが、結果的にそれが有利に働き、良い結果になったんだよ」

 ロヴァンペラは午後のループはさらに厳しくなりそうだ語っていた。「オイットは本当に速いから、トリッキーな午後になりそうだ。でも僕たちに何かできることをみていこう。僕たちがどれだけ対応できるかにかかってくるし、ポイントを獲得していくことも大事だからクレバーにならないとね」

 ブリーンは必死に表彰台にしがみついているが、ステージ中盤のヘアピンでブレーキングをミスして小さくオフ、2位のタナクとの差は41秒へと広がり、ベストタイムを奪った後方のヌーヴィルが26.2秒差へと迫ってきた。昨日から多くのペナルティでタイムを失ってきたヌーヴィルも表彰台への執念をみせる。「自分のやるべき仕事を遂行している。モチベーションを保っていきたい、いつだってそんなに簡単にはいかないが、それでもここにいる以上あきらめたりはしない」

 この日2度目のセカンドベストをここで奪ったエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が朝のループを終えてヌーヴィルから37.2秒差の5位、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)は大雨のプラタック・ステージで1分20秒近く遅れたが、慎重な走りをキープして6位で続いている。

 午後のループは、一番手で走行するラッピのベストタイムとともに始まることになった。その後方、がぜん熱を帯びてきた首位争いは、2位につけるタナクはラッピより6.2秒遅かったが、ロヴァンペラより3.8秒速く、ここでもリーダーに13秒差まで迫ることになった。

 ロヴァンペラはSS14ではタナクとの差を14.8秒へと拡大する。残念ながら、朝のループでパンクに見舞われたプラタックの2回目の走行となるSS15は濃霧のためにキャンセルとなってしまい、ふたたびドラマが起きる可能性はなくなったが、この日の最終ステージのSS16ヴィンスキ・ヴルフ〜ドゥガ・レサでもラッピが一番手スタートから午後のループでの3連続ベストタイムで締めくくるかにみえたが、なんとロヴァンペラがここで素晴らしい速さをみせてベストタイム! ワールドチャンピオンの激しいプッシュに、21歳のチャレンジャーは追い詰められていたかにも見えたが、タナクとの差を19.9秒へと広げてみせた。

「これが僕のお返しだ! フルスピード行く! それが僕の信条なんだ!」とロヴァンペラは自身の仕事ぶりにいつになく興奮したかように笑みをみせた。

 午後のループのもう一つの注目は、ブリーンとヌーヴィルの2位争いだった。ヌーヴィルはSS13のステージ終盤でエンジントラブルに見舞われてしまい、激しく憤りをみせることになった。「エンジントラブルだ。パワーがなくなったんだ!最後の5kmは40%くらいのパワーしかなかったんだ」

 それでも彼はここで2番手タイム、3位のブリーンに11.2秒差まで迫ることになり、さらにSS14でも連続して2番手タイムでブリーンの5.9秒差に迫ることになった。エンジンパワーの問題はヒョンデi20 N Rally1のラジエーターグリルにつまった枯れ葉によってオーバーヒートを招いていたことが原因だとも考えられるが、トラブルが続くことはなく、ヌーヴィルはこの日の最終ステージでも3番手タイムでブリーンに4.9秒差に迫っている。

「僕たちは(表彰台に)相応しいと思うので、戦って勝ち取るべきだ。でも、簡単なことではない」と、ヌーヴィルは表彰台への執念を隠そうとはしなかった。

 エヴァンスにとっては悔しい1日となった。ヌーヴィルをプッシュするはずが、二人の差は49.9秒へと拡大することになってしまったため、あとは5位をキープするしかない状況だ。「まあまあかな。午前中はかなり良かったけど、午後はところどころ難しくなった。非常に泥が多い場所では慎重に走ったんだ。僕たちはポイントを確保する必要があるからね」

 勝田は午後のループの最初のステージで左フロントタイヤをパンク、スペアとして搭載していたのはウェットタイヤだったためペースを上げることができなかったが、ミスのない走りで6位で続いている。

 明日の最終日はザグレブ北部の新しいトラコスチャン〜ヴルブノとザゴルスカ・セラ〜クムロヴェツの2つのステージをノーサービスで2回ループする4SS/54.48kmという短い一日となる。はたしてロヴァンペラが逃げ切ってみせるのか、それともタナクが逆転で選手権を巻き返せるのか。天候は不安定なため、ふたたび雨のドラマが起きる可能性もあるだろう。