WRC2024/02/18

勝田無念リタイア、ラッピが6年半ぶり勝利に接近

(c)Hyundai

(c)Toyota

(c)M-Sport

 2024年世界ラリー選手権(WRC)第2戦ラリー・スウェーデンは、初優勝へのビッグチャレンジが期待された勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)がスノーバンクでスタックする波乱に見舞われるなか、エサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1)が後続に1分6秒あまりの大差をつけてリード、2017年のラリー・フィンランド以来となる、6年半ぶり2度目の勝利に近づいている。

 土曜日は新しいヴェンネス(15.65km)、サールシェーリーデン(14.23km)、ラリー最長のビグドシルジュム(28.06km)の3ステージを、ウーメオのミッドデイサービスを挟んで2回ループしたあとウーメオ・スプリントのロングバージョンであるウーメオ(10.08km)を走る7SS/125.96kmの一日となる。

 大雪に見舞われた前日、カッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)やオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)がクラッシュするといったドラマが多発、リーダーボードは揺れ動くことになったが、すでに雪は日が変わる前に止んでいる。さらにオープニングステージのSS8ヴェンネスでは昨夜のうちに除雪車が入っており、前日までに降ったフレッシュスノーはきれいにかきだされてクリーンな路面がドライバーたちを待ち受ける。しかし、レッキとは微妙に異なる形で除雪されているコーナーもあるため注意が必要だ。

 3.2秒をリードして土曜日をスタートしたラッピは、2つめのスプリットまでは勝田に1秒以上の差をつけ、さらに大きなリードを手にするかにも見えたが、終盤では2.3秒を失ってフィニッシュ、首位はキープしたものの、勝田が0.9秒差に迫ることになった。ラッピはステージエンドでトラブルではなく、セーフティな走りだったと涼しい顔で答えている。「ナローな道をとてもクリーンに走れた。スノーバンクを使ってもっとプッシュすることも出来たかもしれないが、このアプローチのほうが良かった」

 除雪車がクリーンにした路面は凍結しているわけではなく全域にわたって柔らかく、数台の走行でわだちが刻まれたほどだ。さらに9番手でコースインしたラッピが走る時点ではライン上にグラベルが露出して石がかきだされたコーナーもでてきており、たしかに後方になるほどリスクは高まっているようにみえる。

 勝田にとっては首位を奪い返す絶好のチャンスが到来しつつあるようにも見えるが、ここでの走りには満足できなかったとふり返っている。「あまりいいドライビングではなかった。良いコンディションだが、ラインを追うのはそれほど簡単ではない。プッシュし続けているので次のステージがどうなるか見てみよう」

 ここでは1番手のポジションでリスタートしたタナクがベストタイム、5位につけるエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が2番手タイムで続き、4位にポジションを下げたオリヴァー・ソルベルグ(シュコダ・ファビアRS Rally2)に6秒差に迫るとともに、3位に浮上したアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)にも11.8秒差の射程圏内に近づいた。

 SS10サールシェーリーデンでは総合2位を走っていた勝田に失望が待っていた。高速の右コーナーの出口でリヤタイヤがラインから外れた瞬間、彼はスナップオーバーステアに見舞われて、リヤをスノーバンクに接触してしまう! 固くかたまったスノーバンクならマシンは弾かれていたかもしれないが、ソフトな雪の壁にマシンは完全にひきずりこまれてスタックしてしまう。

 フロント回りのクーリングシステムにもややダメージはありそうだが、コースに戻りさえすれば続行は可能にも見える。しかし、勝田はマーシャルの助けを借りて除雪作業を行うも深い雪に阻まれて脱出作業ははかどらず、時間だけが過ぎていく・・・。残念ながら彼はここでラリーを終えることになってしまった。

 勝田の脱落でラッピのリードは1分31秒という大きなものとなった。彼は勝田が消えたことをさみしがったものの、とくにこのような柔らかいスノーバンクは過度に信頼してならないないのだと自らに言い聞かせるようにつぶやいた。「タカに起きたことは本当に残念だ。彼は昨年ここで素晴らしいスピードを出していたが、今年は恐らくそれ以上だった。非常に残念だが、こういうことは起こり得る。スノーバンクは味方にもなるが、使い過ぎるとその逆になるんだ・・・」

 勝田が消えたことでフールモーが2位へとポジションを上げており、キャリア初の表彰台が見えてきたが、安心する暇はなく集中力を維持しなければならないと自らを戒めた。「これはクレイジーなラリーだ! 多くのことが起こっている。グリップはかなり良いが、スピードを出し過ぎたら簡単にスノーバンクにスタックしてしまうからね」

 フールモーの11.4秒後方にはソルベルグを抜いたエヴァンスが3位で続いている。彼はなかなかベストなフィーリングが得られないと不満をみせるが、もちろん2位を奪いにいくつもりだ。

 朝のループの最後のステージとなるSS11ビグドシルジュムは後半のセクションが昨年までと大きく異なっており、とくに終盤のナローなセクションは路面が柔らかく、深いわだちが刻まれてグラベルが露出するなど荒れており、2回目の走行ではやっかいな問題が起きそうだ。

 ここでペースを上げたのはエヴァンスだ。フールモーを激しく追撃すべく、中間のスプリットでは6.4秒も削りとるハイペースをみせていたが、終盤の路面が荒れたセクションでイン側のスノーバンクにヒット、ラジエーターを雪でふさいでしまってパワーダウン、タイムを失ってしまう。「コーナー内側のスノーバンクを僅かに削っただけだったが、雪を取り込んでしまったのだろう。パワーを大きく失ってしまったよ」

 フールモーはエヴァンスからのプレッシャーに耐え、ここで今季初のステージウィンを奪ってその差を16.2秒へとひろげて朝のループを終えることになった。「本当に良い走りができた。このステージの前にセットアップを僅かに変更したところ、非常に良いものを見つけた。今週末は僕の初めての表彰台になるかもしれないので、道路上に留まる必要がある」

 首位のラッピはペースをコントロール、それでも2位のフールモーに対して1分24.3秒をリードしている。彼は好敵手の勝田が消えたことで集中力を保つことが困難になったので過度にセーフティになっていると認めた。「確かに今のほうが(精神的には)もっと大変だよ。だから、過剰に安全に走っているし、スノーバンクにも触れていない。最後の数kmはグリップが全くなく、道路がぐちゃぐちゃだった。そこでは少しスノーバンクを頼ったが、あとの25kmは1回も触れていない」

 ミッドデイサービスのころにはこの週末初めての青空が広がり、気温も0度まで上昇してきた。朝のループですでに大きな轍が生まれるなどコースはダメージを受けており、スタッドにダメージを与える凍結したグラベルが大量に露出してくることが予想されるため、すべてのドライバーがスペア2本を搭載して2回目のループへと向かって行った。

 SS12ヴェンネスではラッピが静かなペースで首位をキープするが、その後方の2位争いはいっそうヒートしてきた。3位のエヴァンスがベストタイム、2位のフールモーも1.5秒差の2番手タイムで一歩も引かず、二人の差は14.7秒に縮まっただけだ。

 ヌーヴィルはスノーバンクに激しくヒットするトラブルを乗り越え、ソルベルグを抜いてついに4位へ浮上してきた。金曜日の午後、燃圧を失ってエンジンがかからなくなったことでTCに遅着、14位まで後退したが、しぶとく選手権のライバルの背後に近づいてきた。「かなりチャレンジングなコンディションだった。どこもルーススノーが多くてとても凍結したグラベルも多かった。タイヤのために最後の方はちょっと抑え気味にしたよ」

 SS13サールシェーリーデンでもコースの上はあらゆるところでかき出された土で黒ずんだような色になっており、無数の石が転がり出しているセクションもある。エヴァンスとしてはフールモーを捕らえたいところだが、無理してペースを上げればスタッドは瞬く間に抜けてしまうため、残された2つのステージのことを考えればなかなか大きく差を縮めることができない。ここでもわずか1.5秒を削りとっただけで、フールモーとは差は13.2秒だ。「なんとか速さを発揮したかったが、グラベルがたくさんあったのでかなり難しかった。タイヤにもケアしなければならないからね」

 日が沈み始めたなかでスタートしたSS14ビグドシルジュムでもエヴァンスはフールモーとの差を縮めようとトライを続けたが、ここでも0.3秒しか縮めることができず、二人の差は依然として12.9秒となっている。

 首位のラッピはラリー最長ステージを走りきったあと安堵の笑みをみせている。「もうすぐ終わる、あとはもう一つだ。そんなに悪い1日でもないし、午後はずっとタイヤをセーブするようにしてきた。最後のステージでも賢いペースでいきたいよ」

 最終ステージのウーメオ・ステージは木曜日と金曜日に行われたウーメオ・スプリントのロングバージョンだ。きわめて狭く、テクニカルなコースは、この週末に4回の走行が行われるため、ラリー前から散水して整備してきたため、スケートリンクのようにフラットな凍結路面をもつ。スタッドにダメージのあるタイヤで挑むのは非常に危険だが、誰にとってもグラベルが露出したステージを耐えてきただけに厳しいチャレンジとなった。

 14位につけていたグレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)が7.3km地点のジャンクションでワイドになってスノーバンクでスタック、脱出作業をしていたところ、チームメイトのフールモーも同じコーナーの出口でワイドになってしまってスノーバンクにフロントがから激しくヒットする!

 フールモーにとって2位を失いかねないヒヤリとした瞬間だったが、幸いにもすぐにコース復帰、8秒あまりの遅れにとどめてポジションを無事にキープすることになった。さらに彼にとってもう一つ幸運だったのは、彼を追撃するエヴァンスもリヤのスタッドにダメージがあることからペースが上がらなかったことだ。二人の差は土曜日を終えて16.7秒へと広がった。

「あぶなかった。でも、ラッキーにもコースに戻れた。なんて素晴らしい日なんだろう!ジェットコースターのように浮き沈みがあった。でもハッピーだよ。僕たちはここにいるんだ」とフールモーは放心したようにゴールを喜んだ。

 フールモーと2位争いを繰り広げてきたエヴァンスにとって残念な遅れとなったが、彼の後方4位で続くヌーヴィルとは59.1秒という大きなマージンをもって明日の最終日を迎えることができる。「午後のループではタイヤのケアをずっとしてきたが、リアのグリップがゼロだったんだ。なんとかハードに攻めたが、理想的ではなかったよ・・・」

 首位のラッピはセーフティな走りで無事にフィニッシュ、後続に1分6.3秒差をつけて明日の最終日に臨む。「ここは楽しかった。本当にドライブを楽しんだよ。楽しいコーナーもいくつかあった。気分はいいよ」とラッピは一仕事を終えた余韻を楽しみながらも喜ぶのは明日だと語った。「もちろんまだ終わったわけではないし、あまり早く喜びたくはない。まだ3つのステージが残っているし、特に2つの長いステージは何が起こるかわからない。このような状況になってうれしいが、まだ終わったわけではないよ」

 明日の最終日は新しい25.50kmのヴェステルヴィッケ・ステージをウーメオでの15分間のサービスを挟んで2回ループし、それに続いてウーメオの2回目の走行がパワーステージとして行われる。3SS/61.08kmの一日となる。はたしてラッピが悲願の2勝目を祝うことが出来るか。オープニングSSは現地7時27分、日本時間15時27分のスタートが予定されている。