WRC2018/12/30

【TOP10-第3位】ティエリー・ヌーヴィル

(c)Hyundai

 WRCが世界を股に掛けた大活劇だとしたら、ティエリー・ヌーヴィルの2018年はまさにラリーそのものではなかったか。残念ながらハッピーエンドとはならなかったが、彼の視界には以前にも増して頂点をリアルに捉えていることを示すシーズンになった。

 ポルトガルでシーズン2勝目を獲得し、選手権リーダーに躍り出た。そして続くサルディニアは、2018年のヌーヴィルのパフォーマンスをアピールするイベントとなった。先頭ランナーとしての路面の掃除役が雨に助けられたこともある。だが5連覇のタイトルホルダーであるセバスチャン・オジエをジリジリと追い詰めた粘り強さと、3.9秒差を追い掛ける形で迎えた最終日の瞬発力は圧巻だった。渾身の4連続ベストタイムで0.7秒差の劇的逆転勝利を遂げたポディウムで突き上げた拳は、ようやくモノにした自信の現れだった。実際、すべてがタイトル獲得に向けてヌーヴィルの背中を押しているようにも思えたのだ。

 しかしサマーホリデーを挟んだ第8戦ラリー・フィンランドから状況は徐々に変化していく。初日にペースノートのミスに起因するコースオフでタイムを失い、リズムを掴み切れぬままに9位でラリーを終える。乱戦のドイツでは2位で踏ん張ったが、トルコではポイント圏外の16位に終わり、パワーステージの5ポイントだけを稼いで辛くもオジエとのポイント差をキープすることになった。

 ウエールズ・ラリーGBでは、ラリー二日目にスピンしてマシンがディッチに嵌まり込み、脱出に手間取ったことで2位から8位まで転落しまう。最終日に5位まで浮上し、パワーステージでのポイントをプラスしたことで、選手権リーダーの座を守ることはできたが、彼も風向きが変わってきたことを感じていたに違いない。

 スペシャルステージにはフラットアウトで飛んでいくストレートもあれば、見通しの悪いタイトコーナーが連続するセクションもある。予想以上にグリップが安定しなかったり、脚元を掬うようなギャップや岩が隠れていることもあるだろう。すべてを奪う落とし穴はそこかしこに存在するのだ。ラリードライビングとは”コンマ秒で連なる選択の連続”と言い換えることもできるだろう。YESかNOか、右か左か。そのひとつの選択に伴う差は微かだが、やがて運命を大きく変えていく流れを作る。傾き出した道筋をどうやって正しい目的地へと導いていくか。すべてを運に任せるわけにはいかない。有無を言わさぬスピードか、綿密に編まれた戦略か。2018年シーズン、ヌーヴィルに足りなかったものは何だろうか。

 まだ3人にタイトル獲得の可能性があった最終戦ラリー・オーストラリア。その初日、2回目のシェアウッドのステージを走るヒュンダイi20クーペWRCのオンボードカメラは、不自然に跳ねた直後のシケインを曲がりきれずにまっすぐ突っ込んでストップする様子が映し出されていた。無情に過ぎていくタイムカウンターはヌーヴィルの2018年を象徴するもどかしさを代弁している。

 2019年、ヌーヴィルは偉大なるチャンピオン、セバスチャン・ローブとともに選手権を闘うことになる。勝つための多くを知る賢者と道を同じくすることで学ぶことは多いだろう。果たして、彼は足りなかったパズルのピースを探し出すことができるだろうか。

■ティエリー・ヌーヴィル
生年月日:1988年6月16日(30歳)
選手権ランキング:2位
獲得ポイント:201点
ベストリザルト:1位
優勝回数:3回
2位の回数:2回
3位の回数:1回
表彰台回数:6回
出場回数:`3回
ベストタイム回数:40回
リードしたステージの数:35SS
リタイア数:1回
ラリー2の回数:1回
パワーステージ勝利数:2回
パワーステージ獲得ポイント:33点