WRC2022/01/23

オジエが首位奪回、ローブに21秒差で最終日へ

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 2022年世界ラリー選手権(WRC)開幕戦ラリー・モンテカルロのレグ3で、トヨタGAZOOレーシングWRTのセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)がMスポーツ・フォードWRTのセバスチャン・ローブ(フォード・プーマRally1)から首位を奪回、21.1秒の差をつけて明日の最終日へ向かう。

 土曜日は前日の順位のリバースで3分間隔で走行へ。1. オリヴァー・ソルベルグ(ヒュンダイi20 N Rally1)、2.カッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)、3.勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)、4.ガス・グリーンスミス(フォード・プーマRally1)、5.クレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)、6.オイット・タナク(ヒュンダイi20 N Rally1)、7. ティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20 N Rally1)、8.エルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)、9.オジエ、10.ローブの順でのスタート。金曜日の朝に谷底に落ちてリタイアとなったアドリアン・フールモーはマシンに修理不可能のダメージがあるためスタートを断念することになった。

 土曜日の舞台はアルプ・ド・オート・プロヴァンス地方となり、ル・フュージュレ〜トラム・オート(16.80km)の走行で始まることになる。サン・ジャネ〜マリージェ(17.04km)とサン・ジェニエ〜トアール(20.79km)の2つのステージをディーニュ・レ・バンでのタイヤ交換を挟んで午後もループする5SS/92.46kmの一日となる。デイサービスは今日も設けられていない。

 朝のループの3ステージのなかにはレッキのときに唯一路面に凍結していたフォンベル峠を通過する伝統のシステロン・ステージの短縮版であるサン・ジェニエ〜トアールのステージもある。土曜日の朝の気温は金曜日よりも低く、昨夜から朝にかけて雪が降ったとの情報もあるため、ドライバーたちのタイヤ戦略は大きく分かれることになった。

 オジエはソフト3本+スーパーソフト1本+スタッド付きスノー2本、エヴァンスとソルベルグはソフト4本+スタッド付きスノー2本、勝田とロヴァンペラはソフト4本+スタッドなしスノー2本、タナクとヌーヴィルはソフト4本+スーパーソフト1本、ローブを含むMスポーツ勢はソフト2本+スーパーソフト2本+スタッド付きスノー2本を選んでステージへと向かった。

 この日のオープニングステージとなるSS9ル・フュージュレ〜トラム・オートは難所のサン・ミシェル峠(1431m)までの12kmを吹きさらしの道を駆け上がる。スタート地点はマイナス2度だが、サン・ミシェル峠ではマイナス8度まで冷え込んでいるため、全体を通して凍結の危険性が高いと見られていた。

 このステージに向けて、オジエはソフト3本+スーパーソフト1本、ローブはスーパーソフト2本とソフト2本をクロスに使用、エヴァンスはソフト4本をチョイスしている。だが、アイスはあまりなく、多くのセクションで路面には霜が降りているようにも見えただけで、意外にもほとんどはドライのターマックだ。

 このステージでベストタイムを奪ったのはエヴァンスだ。それでも彼は自分の走りに満足していない様子で「まだところどころで消極的になってしまうこともあった。グリップが常に変化しているからね」とステージを難しいコンディションだったと評することになった。だが、彼の後方のポジションで走るオジエもローブもこのタイムを抜くことはできない。2位につけるオジエは思いどおりに機能しないハイブリッド・ブーストと格闘していたと認め、エヴァンスに8.2秒後方に迫られてしまった。

 さらに首位でこの日を迎えたローブも7.3秒遅れの7番手タイムと失速、マシンの動きが大きく、ここではスーパーソフト2本は厳しかったと認めることになった。彼はトップをキープしたものの、オジエは6.5秒差、エヴァンスも14.7秒とその差を縮めることになった。「厳しいスタートだよ。僕たちのポジションだと道路が汚れていて、2本のスーパーソフトタイヤのせいでマシンが動き回るのでアンダーステアになることが多かった」

 土曜日の朝にサービスエリアでのスピード違反で900ユーロの罰金を科されたヌーヴィルは4番手タイムで4位をキープしたが、マシンには満足していない。「速く走れない。無理だった。やたらスリップするしアンダーステアがひどい、それからステージ中にラジオが起動して他のドライバーの話し声が聞こえてきた」

 ヌーヴィルの8.9秒後方の5位につけていたタナクは左リヤをパンクしてスローダウン、1分あまりも遅れてロヴァンペラと並ぶ8位へと後退してしまった。「最初からスローパンクチャーか何かのようだった。どうして起きたのかよく分からない」とタナクは首を横に振る。これでヌーヴィルから12.5秒差の5位にブリーン、グリーンスミスが6位、勝田が7位へとそれぞれポジションを1つ上げた。

 SS10サン・ジャネ〜マリージェは、コースオープナーとして走るソルベルグのアクシデントとともに始まることになった。あいかわらずコクピットに侵入する排気ガスに悩まされていた彼は、右コーナーのブレーキングに手間取ったのか、路肩から落ち、木々に挟まれた土手をゆっくりと滑り落ちることになった。自力では抜け出せなかったが、彼は観客の力を借りて35分あまりも遅れてコースへ戻ったが、フロントバンパーを失った以外にほとんどダメージはなくステージを完走した。

 ここでトラブルに見舞われたのは彼だけではない。ヌーヴィルは何かのマシントラブルを引きずっており、ロードセクションで修理に手間取ったことからステージ前TCに1分遅れて10秒のペナルティが課せられている。彼はここでも24.7秒を失い、ブリーンに4位を譲ることになってしまった。「いくつかの問題があるが、今度はステージで何かが壊れてしまった。クルマが片側によってしまうんだ、もうダメみたいだ」

 堅実なペースでここまで走り続けるブリーンは、ステージエンドで「ジャンプやクレストなどまるで故郷のようだ。本当にいい感じだ」と、まるでアイルランドのようなステージを楽しんだと笑みをみせた。さらに、北アイルランドが今季のWRC開催に失敗したことを指して、「8月に走ることができたらとてもよかったんだけど」と残念そうに語っていた。

 また、前日にキャリア初のベストタイムを奪ったグリーンスミスは朝からペースが上がらなかったが、ここではミスファイアがはっきりと聞き取れるほどにエンジンに問題は発生している。さらに右リヤタイヤはデフレーションを起こしてトレッドが剥がれてしまっており、ここで1分41秒も失って6位から9位へと順位を落としてしまった。

 オジエはフィニッシュするや天を仰ぐようなしぐさを見せて納得できない走りではなかったことをアピールしたがここでのベストタイムを獲得、ローブはここでも6.5秒を失い、二人のセブがここで同タイムで首位に並ぶことになった。

 オジエは3本のソフトと組み合わせたスーパーソフト1本のフィーリングが悪かったとステージエンドで訴えた。「正直言って美しいステージだが、スーパーソフトに少し苦労した。だが、彼にとってはもっと状態は悪くなるだろう」

 彼とは永遠のライバルであるローブのことだ。ここでオジエとトップを分け合うことになったローブだが、オジエがスーパーソフト1本であるのに対して、2本のスーパーソフトを装着しており、3位のエヴァンスにも9.3秒差に迫られてしまい、完全な戦略ミスだったかにも見える。しかし、ローブは「ここステージはとてもスリッピーでラフなので、スーパーソフト2本は役に立たなかった。ここまで僕には向いていないようだが、次のステージに期待しよう」と語り、雪と氷が待つSS11のサン・ジェニエ〜トアールでの巻き返しを期していた。

 サン・ジェニエ〜トアールは伝統的なシステロンのステージのショートバージョンだ。いつものスタート地点から15km先のサン・ジェニエからの登りからスタート、雪深いフォンベル峠は冬季にはこのモンテのためだけに開放されている難所であり、今年のモンテのルートのなかで唯一雪と氷に覆われた試練のセクションとなった。

 スタッド2本をクロスに、スーパーソフト1本とソフト1本を前後に組み合わせていたオジエは、アイスでスライドして路肩の雪に乗って崖に吸い込まれそうになりながらも果敢な走りでベストタイムを奪うことになった。「このようなセクションをクロスタイヤで走るのは決して簡単なことではなく、ステージ全体がひどい状態だった。けど、どうにか僕たちは生き残ることができた」と、オジエは簡単なステージでなかったとふりかえった。

 一方、ローブはスタッド2本とスーパーソフト2本を組み合わせてオジエより有利なパッケージをもっていたが、5.4秒の遅れを喫してしまい、ここでオジエが単独でラリーリーダーとなった。

 3位につけていたエヴァンスはスタッド2本とソフト2本をクロスに装着、10km地点のスプリットではトップタイムだったが、雪が消えてドライになったセクションで痛恨のミスを犯してしまう。タイトな右コーナーでイン側のバンクに乗り上げてコーナーの外側にリヤからマシンを落としてしまう。脱出できそうにも見えるが、観客が助けだそうとするのをマーシャルがストップ、コース復帰を一度諦めることになった。

 だが、エヴァンスのマシンはいまにも崖を滑り落ちて下を走るラリーコースをふさぐかもしれないほど危険な状態にあることから、オフィシャルはローブが走り終えたあと赤旗を出してラリーをストップ、コースにひっぱり出している。彼はどうにかラリーを続行することになったが、20分遅れだ。これでブリーンが3位へと浮上することになった。

 スノータイヤを搭載しないギャンブルに出たヒュンダイ勢だが、この勇敢な賭けは大失敗だった。ヌーヴィルは雪のタイトターンでスピンし、スタック寸前になりながらもどうにか40秒遅れの8番手タイムで走りきって4位をキープした。彼はステージエンドで、「タイムが悪かったのはメカニカルトラブルが原因であり、終盤の長いドライセクションがあるのでタイヤ選択が間違ったものではなかった」と主張したが、それはチームメイトを見ればわかるように、あまりにもリスキーな選択だった。

 すでに1本スペアを失っているタナクはソフト3本とスーパーソフト1本を組み合わせて狙いどおりに序盤のドライセクションでは10秒をリードする速さをみせたが、雪のセクションで崖に激しく接触、50秒をロスして8番手タイムでフィニッシュした。

 タナクはステージエンドのインタビューエリアでも止まらずに走り出したが、フロントガラスはマシンからもれたオイルと液体で汚れており、何かの技術的な問題があることは明らかだが、それより重大なのは装着しているタイヤがさらに1本がパンクしていることだ。タナクは昨年もダブルパンクのためにスペアを失って土曜日にリタイアとなっているが、今年もすでに前ステージでスペアを使い果たしていたため、彼はタイヤフィッティングゾーンに戻ることはできずに、2年連続で同じ問題でリタイアとなってしまった。

 このステージではロヴァンペラが2番手タイム、昨日までマシンに苦しんだために9位にとどまっていたが、多くの波乱が発生した朝のループでポジションを戻し、ここでは勝田を抜いて5位へと浮上することになった。

 朝のループのあとサービスはなく、ディーニュ・レ・バンに設けられたタイヤフィッティングゾーンでのタイヤ交換で午後のループに残された2つのステージへと向かうことになる。基本的には全ドライバーがソフト4本をチョイスしてSS10のリピートであるサン・ジャネ〜マリージェの2回目の走行に向かうことになった。もちろんトランクには、さきほど雪と氷に苦しめられたサン・ジェニエ〜トアールの2回目の走行に向けてスノーやスタッドのスペアタイヤを2本搭載しているはずだが、ヌーヴィルはここでもスノータイヤなしでソフトとスーパーソフトで臨む戦略だ。

 SS12サン・ジャネ〜マリージェで速さをみせたのは、前ステージで2番手タイムを奪ったロヴァンペラだ。「もう少しマシンのフィーリングが良くなれば、もっと速く走れるようになる。このステージは本当に素晴らしい。僕にとってはこのラリーで最高のステージだ」とロヴァンペラは目を輝かせた。彼は、メカニカルトラブルと格闘するヌーヴィルを抜いて4位へとポジションを上げることになった。

 ヌーヴィルはこれまで朝のループで悩まされたトラブルの正体を隠してきたが、それが何だったかライブ中継の映像にはっきりと映し出されることになった。動かなくなってしまった右フロントのダンパーが、ついに限界を超えてストラットのトップマウントを破損、ボンネットを突き破ろうとしている状態だ。ヌーヴィルはこれでおよそ4分を失って7位へと転落してしまった。

 ここではローブは2番手タイム、ラリーリーダーのオジエとの差を0.4秒縮めて5秒差に迫ってきた。ローブは「とてもタイトで、バトルはとても激しい。可能な限りプッシュしようとしたけど、これ以上は無理だった」と語ったが、次のステージにむけたタイヤチョイスに聞かれ、彼は何か期するところがあるように、「僕が正しい選択であることを願うけど、それほど大きな違いはないはずだよ」と付け加えた。

 そして迎えたこの日の最終ステージのサン・ジェニエ〜トアール。1番手のポジションで走行するロヴァンエラはソフト2本とスノー2本を組み合わせて素晴らしい走りを披露、「ようやくこのマシンで楽しめるようになってきたし、どんどん良くなっているので、前よりも満足している」と語ることになった。最終的にこのタイムは誰にも破られることなく、彼は連続してベストタイムを奪うことになるが、この時点では「このステージではスタッドタイヤを使うべきだった」と付け加えていた。

 トップ争う二人が搭載しているスペアタイヤは、ローブがスタッドタイヤ2本、オジエはスタッドレスのスノータイヤを2本だ。ロヴァンペラの言葉はローブの選択が有利であることを予告したかのようにも見えたが、なんと二人とも4本ともソフトのドライタイヤを装着してこのステージをスタートする!

 このチョイスを最初に思いついたのは、ローブだった。雪とアイスの危険なセクションは中間の5kmほどに集中しているため、そこをなんとか凌ぎきって後半のドライセクションでタイムを縮める戦略だ。だが、それを見たオジエも同じくソフト4本に組み直してステージへと向かう。

 オジエは雪のセクションを抜けたスプリットでは16.6秒遅れだったのを終盤のターマックで挽回、トップタイムのロヴァンペラから5秒遅れの2番手タイムでフィニッシュした。だが、ローブは雪のセクションでてこずってしまい32秒をロス、終盤のターマックで猛ペースで挽回したが、オジエからは16.1秒遅れてしまう。首位のオジエとローブの差はここで決定的なタイムともいえる21.1秒へと広がってしまった。

 オジエはステージエンドでこのタイヤ選択が勝負だったことを認めた。「最初はスノータイヤで走ろうと思っていた。それが最も安全な選択肢だからね。でも、セブ(ローブ)がスリックタイヤを履いているのが見えたから、スタート前のギリギリのところで僕も変更したんだ。ところどころトリッキーなところもあったが、ドライなセクションは楽しかった」

 優勝争いのターニングポイントになるはずだったギャンブルをライバルに見抜かれたローブは、21.1秒に広がったタイム差を知ってため息をつくことになったが、オジエの素晴らしい走りを讃えることになった。「ちょっと離れてしまったね。僕たちも頑張ったが、オジエは僕のチョイスを見て最後の最後で(タイヤチョイスを)変えてきた。(真似された?)いいんだよ、そんなの。このステージをスリックタイヤで走るのは本当にトリッキーだったからね。セブ(オジエ)は本当に速かった」

 ローブから1分近く遅れているものの、3位にはブリーンが堅実なペースで続いており、終盤の2つのステージで連続してベストタイムを奪ったロヴァンペラが4位で続いている。

 5位につけていた勝田は、凍結したコーナーのブレーキングをミスしてオーバーシュート、雪の中でスタックしてしまい、観客に助け出されたが13分遅れとなってしまい、13位まで後退してしまった。「言葉もないよ」と勝田は力なく語った。「ラインを追っていたんだけど、ブレーキングポイントに氷が大量に出ていて、まさかあれが氷だとは思わなくて、そのままロックしてしまった。チームとアーロンには申し訳ないことをした。助けてくれた観客の皆さんに感謝したい」

 これでグリーンスミスが5位へと浮上することになった。4位でスタートしながら、朝からミスファイアに苦しんで一時9位まで後退するなど、彼にとっても波乱の一日だった。

 ヌーヴィルは、突き抜けたダンパーをラチェットを代用した応急的なアッパーマウントで保持してどうにか6 位でゴール、言葉は少なくライバルに比べてヒュンダイのマシンの開発不足を認めることになった。「なんとかここにいるけれど、何と言っていいのか分からない。昨日よりも良い一日になると思っていたが、残念ながら悪くなってしまった。ラリーの早い段階で、少し開発が足りないことは分かっていたが、もっと良い結果を期待していたんだ」

 明日の最終日はアルプ・マリティーム地方の北西部を舞台とした4SS/67.26kmの1日となる。ハイブリッド新世代の開幕戦をオジエが制することになるのか、それともまた未知なドラマが起きるのか。オープニングSSのラ・ペンヌ〜コロンゲは現地時間8時45分(日本時間16時45分)のスタートとなる。