WRC2018/10/27

タナク、スペインのレグ1で26.8秒をリード

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 2018年FIA世界ラリー選手権(WRC)第12戦ラリー・デ・エスパーニャの金曜日は、トヨタGAZOOレーシングのオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)の衝撃的なスピードで始まった。ルーズなグラベル路面とハイスピードなターマック路面が混在する難しいコンディションで、タナクは終始ヤリスWRCを完璧にコントロールしてみせてラリーをリード、選手権争いがまだ終わっていないことを高らかに宣言してみせた。

 金曜日の舞台となるのは、サービスパークが置かれたポルト・アヴェントゥーラの西方、ガンデーザの街を中心としたグラベルステージ群。7kmのガンデーザ、26.59kmのペセルス、そしてグラベル/ターマックのミックス路面で38.85kmの距離を持つラ・ファタレーヤ〜ヴィラルバの3つのステージを2回ループする構成だ。

 朝8時、ラリーカーは選手権のポイント順に3分間隔でスタート。気温は16度で雨の予報はない。そのため、先頭を走るクルーは路面の掃除役を引き受けることになり、出走順がタイムに影響することが予想された。

 先頭ランナーを務めるティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)は7番手タイムで発進、「掃除が大変だ。フラストレーションが溜まる」とこぼす。選手権でヌーヴィルを追うセバスチャン・オジエ(フォード・フィエスタWRC)も6番手タイム、「路面がスリッパリーでリズムを掴むのが難しい」と困惑気味だ。前夜のバルセロナSSのベストタイムステージで3.7秒ものリードを手にしたにもかかわらず、彼のリードはもはや0.1秒でしかない。

 そうした中、3番手のポジションで走ったオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)が強烈なスピードを見せつける。SS2ガンデーザでは僚友ヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)を2.5 秒離すベストタイムを記録し、さらに続くSS3ペセルスでも2番手タイムを刻み、オジエをあっさりと捕らえて首位に浮上した。このステージでは5番目に走ったラトバラがベストタイムを叩き出して、トヨタは1-2態勢となる。

 リフューエルを挟んで、最初の勝負所、ミックス路面のロングステージ、SS4ラ・ファタレーヤ〜ヴィラルバを迎える。ここで最初のドラマが起こる。快調に飛ばしていたラトバラが痛恨のパンク。左リヤタイヤをバーストさせ、ホイールだけでステージをフィニッシュした彼は、40秒近くを失って10位までポジションを落としてしまった。

 大方の予想通り、最初のループでは後方でスタートしたクルーが好タイムを記録。午前のループを終わって2位にはタナクに11.7秒差でエルフィン・エヴァンス(フォード・フィエスタWRC)がつけ、3位には大声援を受けた地元のダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)が19.2秒差で続く。SS4でベストタイムを奪ったアンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイi20クーペWRC)が23.2秒差の4位。タイトルチェイサーのヌーヴィル、オジエはそれぞれSS4でスピン、コースオフを喫し、ともに8位と6位と低迷している。

 第4戦ツール・ド・コルス以来、半年ぶりの登場となったセバスチャン・ローブ(シトロエンC3 WRC)はこのスペインで史上最多の8勝を記録している。「6年間のブランクは大きいがベストを尽くすよ。まずはクルマのフィーリングを掴めるようにして、そこから自分の感覚でドライブしていこうと考えている」と語っていたが、出走順を活かしてSS4では3番手タイムを記録するなど、伝説の王者らしく朝のループはトップから27.5秒差の6位につけた。

 2回目の走行となる午後のループでは、1回目の走行で問題になった出走順のハンディは解消されるはずだった。ライン上の砂は掃き出され、グリップは上がる。誰もがそう読んでハードコンパウンドのタイヤを選択している。しかし蓋を開けてみれば、またしても先頭スタートのヌーヴィルは路面のダストに悩まされることになった。「まだ道路掃除が残っているとはね。2輪駆動車の轍が残っていて、それよりもワイドになるので、新しいラインを取らなければならなかった」と、浮かない表情だ。

 一方、後方ランナーたちは意気軒昂。ショートステージのSS5ガンデーザ2では地元のダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)がベストタイムを奪ってみせた。

 SS6、2回目のペセルスでは、午前中の勝負所SS4で痛恨のパンクを喫し後退したラトバラがベストタイムを刻んでヌービルを抜いて8位に浮上してきた。パンクで後退したSS4では憤懣やるかたない様子だったラトバラは気持ちを入れ替えて再びプッシュする。

 金曜日最後のステージは高難度のミックスステージ、ラ・ファタレーヤ〜ヴィラルバの再走だ。このステージでは勢いに乗るラトバラがベストタイムを奪った。「(午前中の結果には)フラストレーションは感じているけれど、大切なのは自信を取り戻してきたことだ」と復調をアピールする。

 タナクはここで2番手タイムを奪って首位をキープ、2位のソルドに26.8秒差をつけた。サービスに戻った彼は仕事をやり終えた満足した表情をみせたが、明日からのターマックステージは雨になると言われているだけに、安堵している様子はない。「まだラリーは何も終わっていない。今日はトリッキーな一日だった。午後の最初はマシンがとても良かったが、後半は調子が出なくなってきた。後続に対して、いいリードを築けたことはポジティブだが、明日はもっとトリッキーになるだろう。簡単ではないが、このポジションをキープすることに集中するよ」

 3位にはコンスタントに好タイムを刻んできたエヴァンス。SS7でソルドに抜かれたとはいえ、その差はわずか2.9秒だ。さらにエヴァンスの0.5秒差の4位には、サービスでセットアップを変更し、攻めの姿勢に転じたローブが上位を窺う。5位はSS6に続いてSS7でもベストタイムを奪ったラトバラが順位を上げ、ローブまで7.4秒差まで追い上げてきた。

 午前中のループでは難しいSS4でベストタイムを刻む俊足を見せたミケルセンだったが、SS6でライン上にあった岩にヒット。ペースをセーブして6位で金曜日を終えた。

 オジエは「フロントランナーにとっては辛い1日だったね。僕らはこれ以上ないくらい全力を尽くしたんだけれど」と語るように首位のタナクから39.4秒遅れの7位。ヌーヴィルも8位のクレイグ・ブリーン(シトロエンC3WRC)を挟んで9位と低迷している。

 とはいえ、両者ともに自身のパフォーマンスには満足している様子。ヌーヴィルは「小さなミスはあったもののそれほど遅れてはいない。僕たちはオジエにプレッシャーをかけ続ける」とコメント。オジエも「もしも明日のコンディションがトリッキーなものになれば、それがチャンスになるはずだ」と自信を見せる。

 好調なタナク、再浮上を果たしたラトバラに比べ、エサペッカ・ラッピ(トヨタ・ヤリスWRC)は思うようなラリーができなかった。SS2ではブレーキトラブルによるコースオフ、SS5のスピンが響き、本人はマシンの挙動に釈然としないながらも、ロングステージのSS7で4番手タイムを刻むなど、光明は見えた。「終わってしまったことは仕方がない。今はターマックを楽しみにしているよ」と、10位からの起死回生を狙う。

 ラリーカーは夜の帳に包まれたポルト・アヴェントゥーラのサービスへと帰還し、グラベル仕様から土曜日以降のターマックステージに向けてセッティング変更を受ける。SS8サバヤーは現地時間の午前8時半(日本時間15時半)にスタートする予定だ。