WRC2022/08/08

タナクがフィンランドで3勝目、トヨタは2-3-4位

(c)Hyundai

(c)Toyota

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 2022年世界ラリー選手権(WRC)第8戦ラリー・フィンランドは8月7日に最終日を迎え、ヒョンデ・モータースポーツのオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)がカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGR ヤリスRally1)の追撃から逃げ切って今季2勝目を奪うことになった。タナクのフィンランドでの勝利は、2018年、2019年に続き3度目、ヒョンデにとってはこれが初勝利となる。

 最終日は、ファンにはよく知られたオイッティラ(10.84km)とルーヒマキ(11.12km)の2ステージを連続してループする4SS/43.92kmとなり、パワーステージのルーヒマキのスリリングなメガジャンプでフィニッシュを迎えることになる。

 オープニングステージのオイッティラは、超高速で流れるようなスムースなグラベルから始まり、注意が必要なナローなグラベルへと急速に変化していくため、ドライバーは厳しい状況に置かれる。トヨタの牙城ともいえるラリー・フィンランドで金曜日の朝以降、ミスのない走りでトップを死守してきたタナクだが、2016年にここで激しいクラッシュを喫しているため、最後まで油断はできないところだ。

 だが、そうした懸念を吹き飛ばすかのようにタナクはここで素晴らしい走りをみせる。8.4秒をリードして最終日を迎えた彼は、オープニングのスプリットで0.5秒差をつけるやさらにペースをアップ、160km/hオーバーの高速コーナーのイン側の草むらにノーズをすれすれに攻め込んでいく。

 最後まで優勝を諦めずに「仕事」を完了することに野心をみせてスタートしたロヴァンペラは先にステージをフィニッシュし、タナクがわずかにリードを広げたことを知らされ、少し悟ったように「これ以上できることはあまりない」と語った。

「僕らもかなりクリーンに走れたが、小さな道路は道路掃除が多かった。速く走ろうとしたが、完璧なステージにはならなかった。オイットはうまくやる方法を知っていると思う」

 タナクは、ワイドになって橋の欄干すれすれになることをまったく恐れず、さらにペースを上げて最終的にライバルに1.9秒差をつけてフィニッシュ、10.3秒のリードを築くことになった。

 タナクは静かな口調ながら、ロヴァンペラを突き放す作戦が成功したことを喜んだ。「間違いなくフルパワーだった!ここにいられて幸せだし、これが今朝必要なことだった。このままいいペースを維持しなくてはならないが、素晴らしいフィーリングだった」

 3位で続くのはエサペッカ・ラッピ(トヨタGRヤリスRally1)だが、後続のエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)とは40秒以上のタイム差がついているため、あとは堅実なペースでゴールを目指すだけだ。前日に自ら跳ね上げた石でフロントガラスを壊したことで優勝争いのチャンスを失ってしまったときは、激しく落ち込んでいたが、「新しいガラスで再び前が見えるようになった。この方がずっといいね」と、笑顔も戻ってきた。

 後続のドライバーたちのポジションはそれぞれ30秒以上もの大きなインターバルがあるためほぼ確定、10.3秒差に広がったタナクとロヴァンペラの優勝争いも残された距離を考えれば決着したかのように見える。だが、ロヴァンペラは完全に諦めたわけではなく、SS20ルーヒマキでタイムを削ぎ落とすべく、序盤からスパートを開始、後続のマシンに3.2秒ものタイム差をつけてフィニッシュする。

 ロヴァンペラは、勝利に向けて攻めたのか?という問いに、「そうするつもりはない」と答え、これがリスクを冒して攻めた走りではないと認めた。「もしクレイジーなリスクを取ったら、数秒速く走れるかもしれない。でもその時でもオイットと同じタイムだし、それじゃあ何の役にも立たないし、無駄にリスクを増やすだけだよ」

 後方のタナクは序盤のスプリットではロヴァンペラから遅れたものの、最終的には追いつき、二人はこの週末2度目となる同タイムでのステージ勝利を分け合うことになった。

 信じられないような攻防だが、タナクは勝負はまだ終わってないと考えているのか? 彼は、総合優勝とともにこのステージの2度目の走行で行われるパワーステージ勝利に向けたプランが順調に行っていると認めた。「ここはリスクを冒すステージではない。僕たちはクリーンに走ることが必要で、すべてが順調に行っている」

 SS21オイッティラではロヴァンペラがベストタイムも、もはやタイムは劇的に縮まることはない。0.3秒差の2番手タイムで続くタナクは、10秒のマージンを残しており勝利に大きく近づくことになった。ロヴァンペラは「僕たちの状況では、オイットに追いつくチャンスはない」と認め、「自分たちのペースで走れるし、ステージの雰囲気もいいし、ファンも多いから、ここに来てよかったよ」と語ることになった。

 トップ争いもほぼ決着して、あとはドラマもなく最終ステージを迎えるだけに見えたが、この日最大の波乱が3位につけていたラッピに発生することになった。ルースグラベルがでていたコーナーでコースオフした彼は、そのまま3回転して草むらにストップすることになったが、せっかく直したフロントガラスをまたしても壊してリヤスポイラーも吹き飛んでいるが、幸いにも18.5秒を失いながらもどうにかポジションをキープしてステージエンドに辿り着く。

 だが、マシンを止めた瞬間にエンジンルームから水蒸気が上がり、ラッピはコメントをすることなくすぐに走り去る。ロードセクションにマシンを止めた彼はコドライバーのヤンネ・フェルムとともに冷却系の応急修理を敢行、コース脇の湖から水を汲んできて失われた冷却水を補充するとともに、空のペットボトルに補充用の水を満たして最終ステージへと向かっている。

 そして迎えた最終ステージのルーヒマキは、ロヴァンペラがこの週末、9度目となるベストタイムを奪うとともにパワーステージを制したが、首位のタナクには6.8秒届かなかった。タナクはロヴァンペラの強さに屈することはなく最後までトップを守り切り、6月に行われたラリー・イタリア・サルディニア以来となる今季2勝目をトヨタのホームで飾ることになった。

 タナクはすべてを出し尽くしてへとへとになっていたのか、少しためらうようなそぶりを見せたあとマシンのルーフに駆け上がってマルティン・ヤルヴェオヤとともに風に揺れるエストニア国旗にむけて手を振っていた。「トヨタ勢がラリー序盤の金曜日に僕に希望を与えてくれて、そこでトンネルの先に光が見えたから、間違いなくプッシュしてきた。このような厳しい状況の中で、妻が僕を支えてくれていることを誇りに思う」

 ロヴァンペラはロードスイーパーのハンデを負いながらも2位でフィニッシュしたことを喜びつつ、母国で勝ちたかったと本音をみせた。「もちろんホームで勝ちたかった。しかし、金曜日にコースを開いてきたという僕たちの状況を見れば、かなり良くやったと思う。しっかり戦ってここまで迫ることができたからね、自分たちのやったことは十分誇れると思う」

 前ステージで横転したラッピは、フロントガラスとルーフが外れたオープンカーのような状態のマシンでゴーグルを装着してパワーステージに挑み、3位を守り切った。「何て言ったらいいか、クルマを壊してしまったことはチームに本当に申し訳ないが、ここにいることができて本当に良かったよ」

 昨年ここで優勝を飾ったエヴァンスは、土曜日の不運なサスペンショントラブルがなければ表彰台のメンバーだっただろうが、今年は4位にとどまることになった。

 ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は駆動系を変更、サスペンションのセットアップを見直したことで最終日には3番手タイムを3回奪うなどやっとペースを上げて5位でフィニッシュしている。

 表彰台への挑戦が期待された勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)は2度の高速スピン以外は堅実な走りをみせて6位での完走を果たしている。「良いラリーだった。昨日はたくさんのミスをしてしまい、残念ながらティエリーに追いつくことはできなかったが、来年こそはさらに上に行けるよう頑張りたい」

 ガス・グリーンスミス(フォード・プーマRally1)とピエール-ルイ・ルーベ(フォード・プーマRally1)は4.2秒差で最終日を迎え、Mスポーツ・フォードとしては最高位となる7位を争うものと予想されていたが、リヤのグリップに苦しむルーベが失速したため、グリーンスミスが最終的に7位でフィニッシュしている。ルーベは最終ステージに向かうロードセクションでマシンをストップ、無念のリタイアとなってしまった。

 トップカテゴリーへのデビュー戦となったヤリ・フットゥネン(フォード・プーマRally1)は前日の燃圧の問題に続いて最終日も断続的に発生するパワーステアリングの問題に悩まされたが総合11位でフィニッシュしている。

 また、フィンランドで2度の表彰台を獲得しているクレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)は表彰台に挑む走りを見せていたが、土曜日にサスペンションを壊して残念なリタイアとなっている。それでも彼は最終日にリスタートし、パワーステージでは走行順のハンデをものともしない走りでエヴァンスに0.009秒差をつけて2番手タイムを獲得した。

 第8戦ラリー・フィンランドを終えて、ドライバーズ選手権ではロヴァンペラが198ポイントへとリードを伸ばしており、今季2勝目のタナクが104ポイントで選手権2位へと浮上するも94ポイントという大差となっている。ヌーヴィルは103ポイントで選手権3位に後退、エヴァンスが94ポイント、勝田が81ポイントで続いている。

 マニュファクチャラー選手権では、トヨタGAZOOレーシングWRTが優勝こそならなかったもののWポディウムによって339ポイントへと伸ばしている。ヒョンデ・モータースポーツは251ポイントを獲得、87ポイント差から88ポイント差へとわずかだがポイント差はさらに拡大している。Mスポーツ・フォードが174ポイント、TGRニュージェネレーションは89ポイントとなっている。

 グラベル5連戦を終えて次戦は2週間後に行われるターマックラウンドのイープル・ラリー・ベルギーだ。トヨタに大きく傾いている選手権の流れをヌーヴィルが地元ラウンドでくい止めることができるか? シーズンは終盤にむかって一気に加速していく。