2024年世界ラリー選手権(WRC)第 7戦ラリー・ポーランドは、トヨタGAZOOレーシングWRTのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が土曜日に行われた7ステージのうち6ステージでベストタイムを奪ってラリーをリード、アンドレアス・ミケルセン(ヒョンデi20 N Rally1)に9.4秒差をつけている。
土曜日も晴れた朝を迎えたミコワイキ。この日は、シフィエンタイノ(18.50km)、ゴウダプ(19.90km)、チャルネ(22.40km)の3ステージのあとミコワイキ・アリーナのスーパーSSの3度目の走行が行われる。ミコワイキのミッドデイサービスのあと、午後も同じ3つのロングステージをリピート、7SS/124.10kmを駆け抜けるラリー最長の1日となる。
ラリー・ポーランドは金曜日を終えて首位はミケルセン、1.8秒差の2位にロヴァンペラ、さらに0.2秒差でエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が追い掛ける白熱したバトルとなっている。危険なエリアに立ち入った観客の問題で金曜日の6つのステージのうち3つが中断またはキャンセルされ、素晴らしいバトルに水を差されることになったが、土曜日もオープニングステージのSS9シフィエンタイノでもいきなり同じ問題が発生する。
前日に走行中にコースに飛びだした鹿と接触してリタイアとなったオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)もマシンの修理によって無事にリスタート、彼に続いて勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)、ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)の3台が走行したところでまたもや観客の問題からステージがストップしてしまう。コースの安全が確認されたあとおよそ20分の中断を経て、ラリーはどうにか再開している。
昨夜は小雨が降ったとの情報だが、木陰にはやや湿ったところが残っているものの、オープンなコースは完全なドライ路面だ。いきなり朝から速さをみせたのはロヴァンペラだ。彼は首位のミケルセンを1.3秒上回るベストタイムを叩き出し、チームメイトのエヴァンスを抜き去るとともに首位まで0.5秒差の2位へと浮上することになった。
アドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)は4番手タイムを記録して4位をキープ、ノンハイブリッドながらRally1カーデビューにもかかわらず印象的な走りをみせているマルティンシュ・セスクス(フォード・プーマRally1)との差を6.1秒へと広げている。
SS10ゴウダプは、火曜日のレッキ中にセバスチャン・オジエが一般車との交通事故に遭遇したステージだ。トヨタにとって危機的な状況を招いた因縁のステージで速さをみせたのは2台のGRヤリスだ。ロヴァンペラがベストタイム、0.2秒差の2番手タイムでエヴァンスが続き、二人はミケルセンを抜き去ることになり、トヨタが1-2態勢を築くことになった。
ミケルセンはトップから4.6秒遅れの3位にポジションを下げたとはいえ、このままずるずるとタイムを落とすつもりはない。彼はこの日最長の22.40kmのSS11チャルネ・ステージで反撃のベストタイムを叩き出している。「ペースは高速だし、全開で走っているよ。いい戦いだし、楽しんでいるよ」
コースのビデオなどチェックする時間もなく急遽、ラリーのスタートを迎えながらもラリーをリードするロヴァンペラは、ここでは3番手タイム、2位のエヴァンスがわずか0.1秒差に迫ることになった。
ロヴァンペラは自身の速さが十分ではないと認識しており、このループではまだコースを全開で走ることに恐怖感があったと正直に告白した。「(タイムは)十分ではない。もっと速く走る必要がある。ようやくループの終わりに来られてうれしい。準備が少なかったので、ずっと5速で走るのは非常に怖かった」
ロヴァンペラはミコワイキ・アリーナのショートステージでこの日3つ目のベストタイムを奪い、エヴァンスとの差を0.4秒として朝のループを終えることになった。
0.2秒差で土曜日を迎えた二人は、4つのステージを走ってその差はたった0.2秒しか広がっていないことからも、ここまでの勝負はほぼ互角だ。それでもエヴァンスは午後に向けてサービスでいかにセットアップを改善できるかどうかが勝負の鍵になると語っている。「非常に接戦だ。かなり接戦なので、重要な午後になるだろう。(セットアップも)まだまだやるべきことがある」
ミケルセンもまだトップから2.7秒遅れの3位とまだ優勝争いの可能性を十分に残している。「昨日もラフなセクションでタイムを失ったので、今日はセットアップを正してもっと上手くやらなければならない」
彼の13.2秒後方の4位には「表彰台を狙って攻め続けたい」と語っていたフールモーが付けており、チームメイトから少しずつ遅れてその差は14.8秒へと広がったとはいえ、セスクスが大健闘の走りをみせて5位で続いている。
トップから29.8秒遅れの7位で土曜日を迎えたチャンピオンシップ・リーダーのティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は、選手権ポイントのためにも今日中に5位までポジションを上げることを目標に掲げてスタートしている。彼はSS10でグレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)を抜き去ったが、5位につけるセスクスはノンハイブリッドにもかかわらず果敢な走りでポジションを守り、朝の3ステージでヌーヴィルからわずか6秒を失っただけにとどめており、その差は15.8秒となっている。
ヌーヴィルはセスクス攻略が想像以上にうまくいってないと認めた。「ずっとクリーニングが多かったのでマシンに少し苦労し、セットアップを少し変えたが、うまくいっていない。それでも、もう一つ順位を上げなければならないので、そこを目指すつもりだ」
ミッドデイサービスを挟んで、ラリーカーは午後のループへと向かって行く。昼過ぎの気温は25度と昨日ほどではないが上昇しており、ドライバーたちはハードコンパウンドをオプションとするタイヤパッケージを選んでいる。なかでもミケルセンは最多となるハードを3本選択、ヌーヴィルとセスクスはハード2本、ラリーをリードするトヨタの2人はともにハードは1本のみとしており、このチョイスが勝負の流れをどう変えるのかに注目が集まる。
シフィエンタイノの2回目の走行となるSS13は路面が荒れており、トップから0.3秒遅れの2位につけていたエヴァンスが右リヤが空気は抜けてはいないもののデラミネーションを起こしてトレッドが完全に剥がれ落ちた状態でフィニッシュ、8.9秒を失ってミケルセンに抜かれて3位へと後退することになった。
エヴァンスはステージエンドから無言で立ち去っているが、問題となったリヤタイヤはソフトコンパウンドだったことから、午後はハードに有利な展開になることが予想された。
とはいえここでトップタイムを奪ったのはロヴァンペラだ。それでも彼はけっしてハードを1本しかもたない戦略に自信をもっているわけではない。「トリッキーなループになるだろう、タイヤ選択が正しいかどうかみていこう」。
ミケルセンは0.1秒差の2番手タイムで続き、二人の差は2.8秒と広がったが、彼はこのタイヤ選択に手応えを感じている。「とてもラフだが、すごく頑張っているよ。ギャンブルだったが、今日はタイヤの摩耗のことはあまり考えずに攻めていけそうだよ」
セスクスが石畳の滑りやすいセクションのあとのジャンクションでブレーキをミス、オフしかかって7秒近くをロスしてしまい、7位のヌーヴィルが8.7秒後方に迫ることになった。
ゴウダプの2回目の走行となるSS14は路面のいたるところに深いわだちが刻まれて、ドライバーたちを苦しめる。ハードを3本装着したミケルセンに対して、ハードを1本しかもたないロヴァンペラは明らかなタイヤ選択のミスだと語ったが、ここではミケルセンを2.4秒引き離してその差を5.2秒へと広げている。「これ以上(プッシュ)はできない。このコンディションでできることは限られている、ドライビングはいい、クルマから出来ることを全部引き出しているが、タイヤの選択は間違いだったことは間違いない。ソフトはもうすでに消耗している」
ミケルセンはこのステージのタイムはタイヤではなくロヴァンペラの速さだとライバルの速さを賞賛することになったが、次のステージでは全力でプッシュすると誓った。「(ロヴァンペラが)良かった。いいステージを走れたが、全開でいくべきなのか、そうでないのか判断が難しいコーナーがあまりに多い。僕はそれに対応するための経験が足りていないが、カッレには脱帽だよ。でも僕には状態のいいタイヤがあるはずだから、次は全開で行くよ」
ヌーヴィルは2番手タイム。この日のターゲットとしてきた5位のセスクスまで2.4秒差まで迫ってきた。セスクスは、「もちろん彼のために戦うのは、いまの僕たちの仕事ではない」と語りながらも、「選手権のリーダーを抑えるのはそれほど難しいことではないよ」と笑みをみせた。
迎えた最終ステージのチャルネ・ステージ。ロヴァンペラがベストタイム、ミケルセンとの差を9.4秒へと広げている。ロヴァンペラは右フロントだけがハードであとの3本はソフトで、なかでも左フロントは擦り切れてスリックのような状態になるまで使い果たしている。「一日ベストを尽くした。何が起こるか分かっている午後は、もっと楽しむことができる。残念ながらラリー序盤ではいつもスピードが足りてない。明日は簡単にはいかないだろうし、今日よりもタフになると思う」
ミケルセンは3本のハードを装着したものの、ここではややルースグラベルが多く、路面もソフトだったため、ハードタイヤには厳しかったと分析している。「頑張ったけど、1つ目のステージはタイヤの摩耗が激しかったが、2つ目と3つ目のステージはそれほどでもなかった。たしかにこの順位でも良いけど、もうひとつ上のポジションを目指したい」
エヴァンスは最初のステージでのパンクのため、スペアをなくしたことでペースを上げることはかなわず、ミケルセンから6.7秒遅れの3位で続き、フールモーが4位で土曜日を終えている。
ヌーヴィルは5位のセスクスを抜き去るためにプッシュしたが、ブレーキングのミスがあったためわずか0.1秒届かず、セスクスが5 位を守り切っている。
金曜日のアクシデントのあとリスタートしていたタナクは朝のループで不可解なエンジンの問題を訴えていたが、チームは明日のスーパーサンデーでのポイント獲得に集中させるためにサービスで彼をリタイアさせることを決めている。これにより午後のループは勝田が一番手でコースオープナーを務める。
理想的なセットアップが仕上がってない勝田にとっては、朝のループではダスティな路面の掃除、午後のループでの深いわだちのなかでのコースオープナーというチャレンジングな一日となったが、8位で土曜日を終えている。
ラリー・ポーランドの日曜日は4SS/63.06kmという短い1日となるが、このラリーの最終日はいつも多くのドラマが起きることで知られている。いまのところ雨は降らず晴れの一日になりそうだと天気予報は伝えている。オープニングステージのグミナ・ムロンゴーホは現地時間9時、日本時間16時のスタートが予定されている。