連日のフィンランドネタですみません。トミ・マキネンが生涯一度きりのチャンスに勝ったという1994年1000湖ラリーについて今週のニュースで紹介しましたが、ついでなので、このときのタイヤに関するエピソードをご紹介。
これは当時のミシュランのスタンダード・グラベルタイヤ「FB」のパターンですが、一部が黒く塗りつぶされているのがおわかりでしょうか。これはミシュラン・エンジニアのタイヤカット・マニュアルに当時掲載されていた、その名も「Tommi 1000 Lakes 94」カットとなります。あまりにもフィンランドでトミが速かったので、スタンダードカットとなりました。
当時、ラリーではタイヤのトレッド表面の加工することが許されていました。気象条件や走行順などによって刻々と移り変わる路面のコンディションに対して、タイヤマンがステージ直前に電熱式のカッターで部分的にブロックを削り落として、その路面においてもっともパフォーマンスを発揮できるようタイヤのチューンナップを施していたのです。これがハンドカットと呼ばれる作業でした。
これはターマック用ドライタイヤのカット風景です。カットして溝をつないで排水性を高めているのわかりますか? こんな風に一本一本手作業で削り落とすわけです。
グラベルタイヤはそれこそ変幻自在でした。ダストが多ければ角のブロックを落とし、急に雨が降り出したら、排水を高めるよう縦方向に一本だけグルーブを入れて対処し、マディになったら、思い切って大きくブロックを削るとか。
例えば、こちらはパースで開催されていたころの、特徴的なボールベアリングロードで有名だったオーストラリアのためのカット。
こちらは92年RACラリーのスタンダードカット。雨が降って土が粘り、泥の量が増えればカットはまた大きく変わります。
もちろん、基本的なカットを状況に応じてさらに個々にチューンさせます。どのようなカットを施すかで、1kmあたり1秒違うなんて当たり前の世界でしたから、タイヤマンの腕の見せどころでした。ハンドカットは高度に進化した職人技術だったのです。
チームは専属のタイヤマンたちを抱え、どのようなカットをするのか秘中の秘となっていましたし、その天候や路面にズバリと的中させて好タイムがでれば、Tommi 1000 Lakes 94のようにスタンダードカットとして定番化することもありました。
ヨーロッパ選手権も昨年中盤からハンドカット禁止になりました。公道でのスポーツである以上、FIAとしては不正な改造を助長するような慣習は避けたいようですし、なによりタイヤの使い方が今のエコロジーな時代に合わないのだそうで・・・。
ハンドカットはその性格上、そのステージでの路面状況においてのみ極限の性能を発揮するタイヤをオーダーメイドで作るわけだから、他のステージではこのタイヤは再利用できなくなり、タイヤがいくつあっても足りなくなる状況を招くというわけです。
とはいうものの、ラリー・ドイッチュランドからレインタイヤが新しく公認されます。土砂降りの雨のターマックでは、ただのソフトではあまりにリスキーで、およそスポーツと呼べるものではありませんでしたから。
しかし、これによってタイヤメーカーは、ターマックではけっきょく、ソフト、ハード、ウエットの3種類のターマックタイヤを用意することになったわけだし、どこがエコなんだか・・・ハンドカットを復活させれば、ウエットタイヤなんて不要なのに。
ハンドカットは天候変化に対してとても柔軟な対応が可能だし、シンプルで安全、さらにグラベル・ラリーで路面掃除を強いられるトップスタートのハンデも小さくなる。言うことなしなんだけどね!