新しいフォード・フィエスタRS WRCがドライサンプになるというニュースを読まれた方から、WRCではドライサンプが禁止されているのでは? というメールをいただきました。
結論から書きますが、マニュファクチャラーに向けられて製作された、現在の1.6リッターターボのS2000とWRカーのホモロゲーションについて定めた規約書「Homologation Regulations for Super 2000 Kit Variants (Rallies) / WRC」にも、「Lubrication by dry sump is allowed」と明記され、エンジンのドライサンプ方式を認めています。
そうですよね。この写真みても、誰もドライサンプだと思いませんよね。このようなアングルからGTマシンを見ると、本当にエンジン積んでるの? と思うくらい低くて見えないじゃないですか。
以前の2リッターターボのWRカーのエンジンについては、規定でも「ドライサンプ禁止」と謳ってなかったと記憶しています。市販ベースのオイルポンプを一つだけしか使えないことなどを定めていたことなどから、事実上、ドライサンプ化ができなかったのです。
1.6リッターターボのWRカーでは、ドライサンプに必要なオイル回収のためのスカベンジポンプをはじめ、オイルタンク、薄っぺらなオイルパンや配管などを追加してホモロゲーションを取得することが認められました。
2011年にデビューしたシトロエンDS3 WRCとMINI WRC、2013年にデビューしたVWポロR WRC、2014年デビューのヒュンダイi20 WRCはともにドライサンプを採用しています。フォード・フィエスタRS WRCも今回のホモロゲーションでやっとドライサンプ化となったわけです。
しかし、初期のフィエスタRS WRCはドライサンプではなかったといっても、スカベンジポンプのホモロゲーションを取得して備えていました。ただし他のメーカーのマシンのように別体式のオイルタンクを備えず、フォーカスWRC時代のようにエンジン下端のオイルパンを使っていたのです。
こちら初期型フィエスタのエンジン。下にぽっこりしているのがオイルパン。
ドライサンプが許されたにもかかわらず、なんでフォードがオイルパンなんていう邪魔なものをエンジンの下端においたままにしていたのかというと、レギュレーションでエンジンの重心を低く作ることを禁止し、さらにエンジンを低く搭載するのを禁止していたからなのです。
WRカーのエンジンは単体重量82kg以上(2015年から81.5kg以上に変更)ありますが、規定ではエンジンの重心はクランク軸の上方120mm以上でなければならないとしており、低い重心のエンジンを規制しています。
さらにWRカーのクランク軸についてもベースカーのクランク軸から25mm以内でしか移動できないとするほか、バルクヘッド側に25度までしか傾斜できないとして、エンジンそのものを低く搭載することを禁止しているのです。
つまりオイルパンをエンジン下端に備えても、クランク軸の位置はライバルと変わらないわけですから、初期型フィエスタRS WRCはエンジン高という点においてはドライサンプを採用していなくてもライバルに比べてまったく不利ではなかったのです。
それでもMスポーツが今回、ドライサンプに変更した理由は? それはまた明日あたりにでも。