せっかくドライサンプ化が許されても重心を低く搭載できなければ、マシンの運動性能には関係ないし、あえて投入する必要がないのでは? と思われる方がいるかもしれません。
いままでのフィエスタ RS WRCのエンジンは量産Duratec エンジンのブロックを加工して使用していましたが、写真の新エンジンはアルミムクから削りだした軽量ブロックへと変わるようです。ドライサンプはメカニズムが複雑になるため、安価にカスタマー仕様を供給することが開発のテーマだったフィエスタもこれまでより高額なラリーカーになるでしょう。しかし、それでももはやドライサンプのメリットを無視できなくなったということかもしれません。
ドライサンプではオイルタンクからエンジンにオイルを供給できるので横Gや上下の激しい動きによるオイルの偏りなどがないので、安定してエンジン各部にオイルを供給できることになります。文字通り、オイルサンプはドライとなるためクランクシャフトのオイル攪拌抵抗が軽減されることになり、スカベンジポンプによってクランクケース内が負圧になるため、エンジン上部のオイルを効率的に回収できるようになります。スカベンジポンプでオイルを遠心分離することで気泡を除去できるところも、高性能エンジンにとってはメリットになるでしょう。高圧のオイルをエンジン各部にどんどん回しても、熱をもったオイルがエンジン上部にあふれていてはパワーロスや冷却効率の低下にもつながりますから、オイルを強制的に回収するという巧妙な仕掛けが重要になるわけです。
こちらは昨年までのVWポロのオイルタンク、かろうじて下にスカベンジポンプを見ることができます。スカベンジポンプは薄いオイルパンのボトム2カ所からオイルを回収するために最低2つの回収ステージの機能をもっているはずですが、そのほかにもヘッド回りから直接回収するなんてことをやっているのかもしれません・・・。どうもVWの配管をみるとそんな気がします。
WRカーのエンジンは、各部の温度やプレッシャーについておよそ20個ものセンサーで監視しています。エンジンに極限の性能を発揮させるためには、より高度な仕掛けやエンジンの緻密な管理が必要になってきています。勝とうと思えば、どうしてもお金がかかったエンジンになってしまいます。
プロコップも新しいエンジンをバックにうれしそうな表情です。初期のフィエスタWRCは、フォードという後ろ盾を失ったチームにとってコストとパフォーマンスのぎりぎりの妥協点を探ったマシンだったのかもしれませんが、Mスポーツはティエリー・ヌービルをチームに奪い返したいという熱意をみせるくらいなんだから、新しいフィエスタWRCはかなり高いパフォーマンスをターゲットに開発されたはずです。期待できそうな気がしてきました!