FIAが発表したWRC2の選手権2位の順位がおかしなことになっているようで・・・。ただの計算ミスなのか、もっと複雑な話なのかよくわかっておりません。コルシカでジュニアWRCのエントラント全員がWRC3のポイントを剥奪されるというよくわからない裁定があったように、順位や規定通りにポイントが与えられないのは困りものです・・・。

さて、このコルシカで発生したジュニアWRCの問題は、シトロエンのDS3 R3T Maxを使うエントラント全員がウォーターポンプの違反で60分のペナルティを科されるとともに、WRC3のポイントが剥奪されることになった件についてオーレ・クリスチャン・ヴェイビーがFIAに提訴、まだ未解決となっています。エントラントに悪意があったわけではないけど、ともかく違反パーツが使用されたのは事実で、ジュニアWRCは昨年のフランス・ラウンドでもカムシャフト違反で全車が失格というトンデモ事件が発生していますが、今回も全車失格じゃあまりにもまずいのでなんとか選手権を成立させましょうね、まあまあいいじゃないの的な話の流れから、規定を無視した大岡裁きとなったと見られています。僕の想像ですけど。

前置きが長くなりました。今日お話しをしたかったのは、この曖昧なポイント規定の話じゃなくて、ウォーターポンプのお話であります。

遡れば、グンター・シュタイナー（来年、ハースF1のチームボスに大出世ですよ！）が設計した1999年に初登場したフォード・フォーカスWRCもデビュー戦のモンテカルロでウォーターポンプの違反で失格になっていますが、実はグループA時代からウォーターポンプは市販車のものを大きな改造をせずに使用しなければならないというルールがあるため、これがエンジニアの腕の見せどころとなっているのであります。

もちろんグループN4およびグループR3/5のウォーターポンプに関する縛りはより厳しく、市販車のものを基本的に（！）そのまま使用することが義務づけられていることから、パワーアップしていくとどうしてもいろいろな無理が生じることになっていたのです。プロダクションカーですから、いくらエンジニアが悩んでも、限界があるわけで、昨年、プジョー208 T16 のエンジンにいろいろ問題をかかえたプジョー・スポールが電動ウォーターポンプのタービンの改造を認めてほしいとFIAに特例を申請しましたが、これはさすがに却下されることになりました。

かつて三菱やスバルはラリーカーに改造しても問題がでないように市販パーツにもそれにふさわしいパフォーマンスをきっちり与えていたのですけどね。いまのラリーカーは、市販車の技術やモノ作りの思想とまったく寄り添ったものではないところに問題があるのかもしれませんね。

さて、話をシトロエンのDS3 R3T Maxに戻すと、DS3のベース車には電動のウォーターポンプが備わっており、先に言ったとおり、本来はR3/R5はこのポンプをそのまま使用する規定となっていたのですが、2015年10月から規定が変更となり、すでにホモロゲーションをうけている他メーカーのポンプを使用することが可能となりました。

シトロエンによれば、この規定に従って新しいウォーターポンプを準備し、そのホモロゲーションを申請、10月1日から使用許可が認められれば問題なくコルシカから使用できたのですが、手違いによりホモロゲーションが下りなかったことからこのようなジュニアWRCの全車が規定違反するという騒ぎになったわけです。

ところでなぜ今年突然、R3/R5のウォーターポンプの規定が緩くなったのかというと、実はトヨタの86R3のホモロゲーションを通すための措置だったことはあまり知られていません。

けっきょくデビューが10カ月も遅れちゃったためにドイツのワンメイクラリーが中止となった86R3。その原因はステアリングやサスペンションを熟成する作業もありましたが、最大の問題はウォーターポンプでした。トヨタ86は富士重のラインで製造されるため、肝心のトヨタには搭載されているウォーターポンプの設計図もないしそれ自体を部品として作ってもいません。したがって、市販パーツ（基本的には!）のホモロゲーションの申請ができなかったのを救済するためにこの超特例が導入され、脆弱な性能を嘆いていたシトロエンが諸手を挙げて飛びついたというわけだったのです。

というわけで、来年登場する予定の208T16エボリューションにはもうエンジントラブルはないかもね！ と、話がとても長くなってしまいましたが、たかがウォーターポンプだけど、されどウォーターポンプという本日のお話でありました。